2025年&2040年問題に備えて医師が習得すべきスキルと転職先の選び方

2025年&2040年問題に備えて医師が習得すべきスキルと転職先の選び方

2025年&2040年問題に備えて医師が習得すべきスキルと転職先の選び方

以前から耳にする「2025年問題」と「2040年問題」。実際に言葉は聞いたことがあっても、内情や背景などはよく知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

差し迫っているとはいえ、もう少しだけ時間がある「2025年問題」と「2040年問題」。混同している方もいらっしゃいますが、実は少しだけ意味合いなどが異なります。今回は、この2つの問題を解説しながら、それらに備えて医師が習得すべきスキルと転職先の選び方も併せて解説してまいります。

医療の現場が抱える2025年問題&2040年問題

「2025年問題」と「2040年問題」。医療現場が抱える問題を中心に見ながら、簡単に問題の概要を説明してまいります。

2025年問題とは?

2025年問題とは、団塊の世代(1947年~1949年生まれ)全員が後期高齢者(75歳以上)となる2025年前後に生じる問題すべてを指します。

現在、国内では後期高齢者の増加による医療需要の高まりが懸念されており、実際に需要は日本全体で2025年がピークになるとされています。しかしながら地域(特に過疎化の進む地域など)によっては、既に2010年をピークとして需要を超過したと報告される地域もあるため、医療体制の整備は急務となっています。また介護需要は2030年がピークであることから、介護領域では「2030年問題」と呼ぶこともあります。

医療・介護ともに、医師・看護師を含めたスタッフの業務量の増加は避けられません。しかし日本はOECDによる調査によれば、人口1,000人あたりの現役医師数は全23か国のうち下から6番目。過去20年に比べ雇用は増加していますが、人口あたりの医学部卒業生数はOECD加盟国で最も少なく、また女性医師の割合も最も低い結果となっています。
将来的に医師人材の不足が予想されていることから、今後更に1人あたりの作業量・労働時間の増加の可能性が指摘されています。

2040年問題とは?

2040年問題とは、2040年前後に世代間の不均衡が著しくなるために生じる様々な問題を指します。

以前より言われている少子高齢化が進み、団塊ジュニア世代(1971~1974年生まれ)がすべて65歳以上となるのが2040年頃だと言われています。実際その頃には1.5人の現役世代が1人の高齢者を支える形となり、かつ出生数が50万人を割る一方で毎年90万人の方が高齢者となる状況が想定されています。2040年は高齢化率35%超を見込んでおり、本格的な超高齢化社会に突入すると言っても過言ではありません。

そしてそれはイコールとして高齢者に対する医療・福祉ニーズが更に高まることを指します。しかし先述の通り、医療福祉従事者の不足も指摘されており、特に2040年は医療福祉従事者が1,070万人も必要という試算もあります(令和2年版厚生労働白書)。ただし現状、その人員を補えるとは言いづらい状況です。

一方、合併症などを抱える高齢者が増える見込みから、2018年度より新専門医研修制度の基本領域に追加された「総合診療専門医」が2040年問題における人手不足解決の一因になるのでは、と期待されていました。しかしその取得を目指す医師は年150~200名と少なく、また地域医療の担い手不足も問題になっており、全体的に医師人材の確保が急務となっています。

医療機関は働き方改革やICT化への取り組みに迫られる

2025年問題・2040年問題で到来するだろう人材不足。厚生労働省は2040年に向け、「多様な就労・社会参加」、「健康寿命の延伸」、「医療・福祉サービス改革」を政策課題として示していますが、現在未曾有のパンデミックによって医療従事者の人材不足が更に加速するという見方もあります。

特に近年では労働環境改善という意識からも、医師などの長時間労働に関しては非常に話題になりました。そして2024年にはついに「医師の働き方改革」がスタートします。主に曖昧だった残業時間の枠組みを定めることで残業時間を減少させること、それによって不足する医師人材を補うべくタスク・シフティングやタスク・シェアリングといわれる看護師などの他職種への業務の割り振りなどが挙げられます。今後医療機関は、否が応でも既存の枠組みからいかに改革できるかが迫られます。

またそれだけでなく、医療現場におけるICT化によるDX(デジタルトランスフォーメーション)も人材不足解消に期待されています。例えば、AIとオンライン診療をかけあわせた遠隔画像診断では地方の人材不足の解消に、メタバースなどの新しいデジタル技術を活用した手術システムは指導者不足に、電子カルテや電子薬歴などの周辺システムの普及は全国で医療情報が共有できる体制の確立に期待できると言えます。またこれらの技術を活用することで、効率的な働き方が可能となります。

人材不足を解消し、生産性を向上させるため、これらの動きが必要となってくると思われます。
なお、働き方改革・ICT化・DXに関してはこちらの記事で解説しておりますので、あわせてご覧ください。

関連記事

多様性が進んでいますが、それは働き方にとっても同じこと。多様な働き方を選べる社会にするため、2019年4月から政府主導の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(通称:働き方改革関連法)」が施行されています。ただし医師[…]

医師の働き方改革とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説
関連記事

情報化社会において、様々な業界で電子化・データ化が推進される昨今。医療分野でもICT化が進められており、働く側にもITリテラシーが求められる時代になってきています。ところで、ICT化という言葉がどういう意味かご存じでしょうか。[…]

医療分野のICT化―電子カルテとオンライン診療の例から解説!
関連記事

デジタル技術が生活に浸透してきた昨今。パソコン、スマートフォン、タブレット端末といった通信機器も当たり前になり、それらを用いた様々なアプリケーションやシステムなどを生活の中に取り入れている方も増えています。また診療においても[…]

医療現場にも到来中!「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは?

2025年問題&2040年問題に備えて医師が身に付けるべきスキル

今後、医師不足に直面すると言われる中で、医師の就業先は年々多彩になっており、今後の政策次第では介護領域における医師の需要もますます高まる可能性があります。併せて少ない医師人材を獲得すべく、より優秀な人材を囲い込もうとする動きが起こると考えられます。では、その時が来る前に、医師が身に付けておきたいスキルは何でしょうか。

コミュニケーション力

2001年以降に医師免許を取得された方はご存じかと思いますが、近年では医師国家試験で「コミュニケーション能力、社会性」をみる目的から、患者の心情や背景を理解して適切な返答ができるかを問う問題が何問か出題されています。逆に言えば、コミュニケーション能力が、医師の中でそれほどまでに重要視されている能力だという見方もできるでしょう。

また対患者だけでなく、コメディカルなどの対スタッフでもコミュニケーション能力は重要です。推進されるタスク・シフティングなどの観点からも、スタッフ間の信頼関係を築く手段の一つとして有用です。

今後、連携不足から起こりえる様々な医療ミスやトラブルを回避し、効率的に働くという目的からもコミュニケーション能力はますます求められていくでしょう。

関連記事

今、医師転職市場で「最も求められるスキル」は何だと思いますか?転職を前に「自分の今のスキルだと相談できるのか」とご不安になる方もいらっしゃるかと思います。これまで丸2年間のコロナ禍を経た医師転職市場は、非常に変化が激しい状況[…]

今、医師に最も求められているスキルは「コミュニケーション力」!?

IT・ICT関連のスキル

先述の通り、医療の担い手が不足する時代を見越して、現在ICT化などで医療現場のDXも推進されています。

特に訪問診療や健診などの領域では新しいシステムを導入する法人もあり、電子端末の入力・操作といったスキルは当たり前に求められるスキルになりつつあります。もちろん、外来などは医師事務作業補助者の配置によって、医師自身が入力することは少なくなっていることも事実です。しかしながら、論文作成などもPCで行われるようになって久しく、また電子カルテや周辺システムもますます普及していくと考えられます。今後、デジタル技術をある程度理解していないと厳しい場面が増えてくるかもしれません。

また昨今は、コロナ禍や診療報酬改定によりオンライン診療も普及し、WEB会議システムやテレビ通話が可能なアプリケーションも当たり前に使われるようになっています。今後、更なる新しいデジタル技術が登場していくと推測できるため、常に最新のIT・ICT関連のスキルは持っておきたいところです。

全人医療的な視点

「全人医療(全人的医療)」を辞書で引くと、以下のように書いてあります。

特定の部位や疾患に限定せず、患者の心理や社会的側面なども含めて幅広く考慮しながら、個々人に合った総合的な疾病予防や診断・治療を行う医療。

デジタル大辞泉-全人的医療

簡潔に説明すれば、「疾病ではなく、患者本人を診る」という言葉もある通り、患者本位の医療の実践を目指すものです。患者の身体的・精神的な部分だけでなく社会的な部分や経済的な部分なども配慮し、患者本人を総合的に診療する視点をもつことが全人医療的な視点と言えます。

もちろん自分1人でそれができることも良いかもしれませんが、100%自分で行うのは難しいですよね。すべてを把握しきれないからこそ他職種との協力が必要不可欠であり、「チーム医療」で患者を診ることが必要です。一般的に看護師などは患者に接する時間が医師よりも多く、医師だけでは気づきづらい部分──例えば普段の患者の様子といった看護師の意見も貴重です。診断・治療に関しては医師が専門家かもしれませんが、普段のケアなどは看護師などがメインで行っています。報告・連絡・相談を前提として他職種の視点もあわせた多角的な視点は、患者個人にあわせた診療を行うという意味合いでも全人医療的な視点の大事な柱なのではないでしょうか。

専門領域に関する深い知識

総合診療スキルが求められていることは言うまでもありませんが、その総合診療スキルのためにご自身の専門領域への深い知識が必要だと言えます。「話が矛盾しないか?」と感じられたかもしれませんが、専門領域の知識は返って総合診療のスキルアップにも繋がってきます。

そもそも、総合診療スキルが求められるのは、高齢者1人が抱える疾患が若者と比べても多岐にわたることにあります。しかし専門領域の深い知識をもつということは、患者の主訴などを通してそれが自身の専門領域かそうではないか、その症状が他のどの専門領域に関連するのかという見極めが出来ることにも繋がってきます。つまり専門領域に関して深い知識をもつことで、おのずと総合的な診療の知見に繋がってくるため、他科の医師への紹介や院内での相談といったその後の診療がスムーズに行えるということでもあります。

また現在の研修医・専攻医は、各専門医を取得した上で、その下のサブスペシャリティを学ぶようになっています。もちろんすべての医師がその道を辿るということではありませんが、臨床を選んだ若手医師は今後その道を辿ってきます。逆に先生方のほとんどは専門的な診療を長く経験していますので、より専門性を深めることで総合診療の知見が身についてくると言えます。もちろん、総合診療を専門領域にされている方は、文字通り今後更に深い知識が求められると言えるでしょう。

マネジメント・リーダーシップスキル

地域医療連携が謳われて久しいですが、今後はより地域医療が重要になってきます。そしてその地域医療の中で、医師は看護師や臨床検査技師などの医療従事者に加え、介護・福祉領域のスタッフにも関わる機会が増えてきます。また、チーム医療を推し進めている法人などでは、既に他職種による連携がなされているところも見られます。そうした医療連携では医師が組織人としてマネジメント・リーダーシップスキルを発揮して進めていくことを求められがちです。

コミュニケーション能力もそうですが、リーダーシップやマネジメントスキルなどを含む「ノンテクニカルスキル」や「ヒューマンスキル」といわれるスキルは、臨床スキル(テクニカルスキル)を補完し、事故やトラブルを減らし、安全で質の高いチーム医療を実現するために重要です。言い換えれば、組織で問題を解決するための力として、これらのスキルは注目されています。

また働き方改革で予定されるタスク・シフティングやタスク・シェアリングにも必要不可欠です。医師の指示やマネジメントの上で各スタッフに割り振る必要があるため、人員や状況の把握といったスキルが前提です。

今後転職するべき病院の選び方

これまで2025年問題&2040年問題を見てきました。では、これらの問題を受け、今後どのような医療機関に転職すべきでしょうか。ポイントごとにそれぞれ解説してまいります。

IT・ICT化を促進しているか?

人材不足に立ち向かうために、生産性の向上も有益です。そしてその手段として、IT・ICT化の促進を行っているかどうかもポイントの一つと言えます。

ただし、ICT化することはペーパーレス化と同義ではありません。ただIT技術を導入すれば良いということではなく、効率化が必要です。少しわかりづらいかもしれませんが、ICT化を促進するということは、業務の標準化を進めているということでもあります。可能な限り業務を簡素化しているからこそ、IT技術によるICT化が可能という前提があるためです。転職する際には、ICT化、IT技術の活用を行っている法人・医療機関かどうかもポイントの一つになりえます。

離職防止や過重業務防止の配慮があるか?

人材不足の対策として離職を防止し、今在籍する人材に長く働いてもらえるような取り組みは重要な点の一つです。

出産・育児、疾病・介護が理由の場合には、両立を支援する制度などがある医療機関への転職がおすすめです。またモチベーションの維持・向上のための取り組みの有無も重要な点です。キャリア形成や研修会などの設置、福利厚生面の整備、定年制度などは、医療機関によって差が出やすい部分ですのでしっかりチェックしておきましょう。

また同じ理由から過重業務防止の取り組みも重要です。2024年にスタートする勤務医の時間外労働の上限規制は、医師の労働時間の短縮において大いに重要です。勤務医の当直・オンコール業務の軽減、タスク・シフティングの取り組みの推進も併せて、医師の過重業務防止策をどれだけ進めているかもチェックポイントの一つです。

人材育成を鑑みた労務管理がなされているか?

先述にもありましたが、2024年の働き方改革によって、これまで曖昧だった勤務医の時間外労働の上限が明確に規制されます。それはつまり、医師の働き方改革に備えて他職種へのタスク・シフティングなどを進めて医師の時間外労働を減らし、業務効率を上げる必要があることと同義です。しかしそれは上の意向を下に指示するトップダウンのやり方だけでは、実現が困難です。細かな部分は現場で働く者でないとわからないことも多く、現場の声を聞いて改善に取り組むボトムアップのやり方を行う医療機関の姿があるかどうかは、転職先を選ぶ上で重要なポイントの一つになりえます。

特に余裕をもって働くスタッフが多い医療機関は、研修医が働きやすい環境であることも多く、次年度の研修医にもその情報が引き継がれていきます。その話を聞いた若手の勤務医が転職先・就職先に選んで余裕をもって働くことで、地元の方にも認知されて評判が上がるといった良い循環が期待できます。そのため、人材育成を鑑みた労務管理がしっかりとなされているかは転職先を選ぶ上で非常に重要だと言えるのです。

最新医療機器の導入に積極的か?

既存のシステムや医療機器は使い慣れているため、どうしても使いやすいという意識がある方も多いことでしょう。しかし世界的にはDXが本流になっており、日々、多くの医療機器・システムが開発されています。また時代の流れとして、世界的にAIと組み合わせた最新システム・最新医療機器も増えています。最新医療機器で検査・治療するというだけでなく、ICT化でその先の分析・診断などまで一連の流れで行えるAI医療機器の研究が盛んです。

つまり言い換えれば、既存のシステム・機器のままということは、それだけ業務的にも旧来的なやり方で行われているという見方もできます最新医療機器の導入に積極的であるということは、生産性・業務効率の向上を目指す取り組みに積極的であるとも言えるでしょう。

地域連携を重視しているか?

これは以前より言われていますが、医療機関が地域連携を重視しているかどうかは、転職先を選ぶ上で大変重要です。地域によっては都市圏近郊であっても過疎化するという予測の医療圏もあります。人口は医療機関への経営にも直結する話ですが、一方でその地域における医療の需要と求められる医療機能を予測しなければならないことと同義でもあります。

地域包括ケアシステムへの参画のために、医療機関の機能の方向性が確立しているかどうかも重要です。開設以来の機能だけを強化したり、専門領域に尖ったり、地域で不足する機能に変更したり、医療機関の方針は様々です。しかし何よりも実際に地域の医療機関と連携が取れている医療機関かどうかは転職先の医療機関を選ぶ上では重要な見方の一つと言えます。

まとめ

2025年&2040年問題は遠い未来の話ではありません。将来超高齢化社会となった時に起こり得る人材不足や医療需要の増加という問題に対し、国は既に働き方改革や今後医療現場のDX化の推進という手を打っています。しかし人材不足の中で医療機関側はより優秀な医師人材を獲得すべく、囲い込もうとする動きが起こると考えられます。転職市場では、専門性・総合診療などの臨床スキルだけでなく、ノンテクニカルスキル、IT技術や最新医療機器などの新しいものを取り入れていく姿勢も当たり前に求められるスキルになっていくでしょう。反して先生方も医療機関に対して人材不足を解決する姿勢があるかどうか、運営方針がしっかりしているかどうかなどの厳しい目を向けていくことで、より良い転職を行うことができると言えます。

現状、勤務先にお悩みの方はもちろん、キャリアに迷っている方も是非医師ジョブにお気兼ねなくご相談くだされば幸いです。


>医師ジョブの求人紹介サービス

医師ジョブの求人紹介サービス

クラシスのコンサルタントが、先生の転職、バイト・非常勤の求人探しを全面サポートいたします。
情報収集から転職相談、条件交渉・面接設定など、全て無料にてご利用いただけます。
理想の求人探しをクラシスにお任せください!