【医師】パワハラを回避するためにすべきこと─加害者・被害者にならないための対策

【医師】パワハラを回避するためにすべきこと─加害者・被害者にならないための対策

【医師】パワハラを回避するためにすべきこと─加害者・被害者にならないための対策

先生方はパワハラを見聞きしたことはありますでしょうか。

厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査(2020年)」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した労働者は31.4%でした。

言い換えれば、3人に1人の労働者が3年以内にパワハラを受けたと回答したことになります。

この数字は世界的に見ても高い数字であり、これは一般的な会社員だけでなく、医師などの医療スタッフも同一と言えます。

今回は、パワハラに関して加害者・被害者にならないためにどうすべきかも含めて解説してまいります。

パワハラとは

「パワハラ」といえばパワーハラスメントの略称として知られていますが、実はパワーハラスメント自体が和製英語だというのはご存じでしょうか。

英語では「Abuse of authority」と呼称されることも多く、「職権乱用」を指す言葉です。
「自らの地位・職務に認められた権限を正しく使わずに自らの利害に用いること」と辞書にある通り、パワハラにも適用できます。

また、「Workplace bullying」と訳されることもあり、これは意味合いとして「職場のいじめ」そのものを指します。
「Mobbing」と訳されるケースもありますが、これは集団が1人をいじめている場合に使用され、「Bullying」より更に酷い状況を指す単語です。

では、そもそもパワハラとは何でしょうか。

パワハラの定義

厚生労働省が定めている「パワハラの定義」では、職場において以下の要素をすべて満たすものを指します。

  1. 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われるもの
  2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
  3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること・就業環境を害すること

詳しく見ていくと、以下のように整理できます。

要素意味
優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われるもの当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること
業務の適正な範囲を超えて行われること社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当出ないものであること
身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること(1)当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること
(2)「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」又は「就業環境を害する」の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とする

※ 引用:パワーハラスメントの定義について|厚生労働省(pdf形式)

なお、この定義付けの前に、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」において「職場のパワーハラスメントに当たりうる行為」として職場のパワーハラスメントの典型的な例を6つの行為類型に整理していました。

そこで挙げられた6つの行為類型と①~③までの定義を整理するとこのようになります。

①~③を満たすと考えられる例①~③を満たさないと考えられる例
6類型身体的な攻撃上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする業務上関係のない単に同じ企業の同僚間の喧嘩
(①・②に該当しない)
精神的な攻撃上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する
(②に該当しない)
人間関係からの切り離し自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する
(②に該当しない)
過大な要求上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
(②に該当しない)
過小な要求上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせる
(②に該当しない)
個の侵害思想・心情を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする社員への配慮を目的として、社員の家族の状況等についてヒアリングを行う
(②・③に該当しない)

※ 引用:パワーハラスメントの定義について|厚生労働省(pdf形式)

①~③を満たすと考えられる例は言わずもがなではありますが、パワハラと認められますね。

しかし、①~③を満たさないと考えられる例では、それぞれ該当しないものがあるため、パワハラとは言えないと考えられます。

このようにパワハラかどうか、というのは厚生労働省が定めている「パワハラの定義」①~③に当てはまるかどうか、というところが一つ判断材料になります。

パワハラ防止法の全面施行

2022年4月から中小企業にも適用された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」

ピンとこないかもしれませんが、この「中小企業」というのは所属先団体の資本金または雇用人数で区分されるため、中小規模病院やクリニック、個人医院もその対象となりました。

今回、中小企業にも適用された件に関しては、同法律第30条の2 第1項にも記載されている通りですが、「雇用管理上必要な措置」が義務化されました。

(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
4 厚生労働大臣は、指針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。
5 厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
6 前二項の規定は、指針の変更について準用する。

昭和四十一年法律第百三十二号 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

少しわかりづらいですが、抜き出すとこのようなことです。

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談(苦情含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

「雇用管理上必要な措置」として、以上のことを行わなければならず、相談にきた労働者に対して不当な扱いをしれはならない。

ただし、こちらに記載されている「職場」は企業のオフィスという意味合いではありません。

事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。

勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。

引用:職場におけるハラスメント関係指針|厚生労働省(pdf形式)

厚生労働省の例に挙げられている通り、例えば接待や取引先との待ち合わせの場所、出張先に向かう車中なども「職場」と規定できます。

つまり、訪問診療や巡回健診の車中、医局、ロッカールームなどでも場合によっては「職場」という判断ができそうです。

また、「責務」として以下のことも記載されています。

(国、事業主及び労働者の責務)
第三十条の三 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。昭和四十一年法律第百三十二号 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

一言で言えば、国・事業主はもちろんのこと、労働者自身も知らぬ存ぜぬではなく、しっかりとハラスメントを理解して事業主の「雇用管理上必要な措置」に協力しましょう、ということです。

とはいえ、罰則規定がないため、こちらの法律がどこまで機能するのかという疑問は大きいようです。

しかし罰則規定がなくとも、民事訴訟は当然ながら可能ですので、守らなくても良いということでは決してありません。

つまりは、しっかりとハラスメントなどに関して理解・認識した上で、誰もが気持ちよく働ける環境をつくることが目的の法律と言えます。

医療の現場ではパワハラが発生しやすい?

「医療現場はパワハラが多い」という話も聞きますが、実際はどうでしょうか。

医療の現場というのは、実にストレスの原因となるものが多い労働環境と言えます。

症状から疾患を疑ったり、オペの段取りなどを考えたり、検査を行ったりと頭脳労働なのはもちろん、肉体が資本という意味で肉体労働でもあります。

また、対患者とその家族の場面では感情労働の側面も強く必要とされるため、ストレスが溜まりやすい環境にあることは間違いありません。

実際に医療スタッフ間──特に看護師・看護助手が被害者となるパワハラが発生しやすい職場であり、厚生労働省もこの件は労働者のメンタルヘルス対策でも取り上げています。

特に暴言・暴力から精神的に疲れてしまう方が多いという報告が上がっていますが、その一方で対策が追い付いていない面も見受けられます。

そもそも病院などの医療機関は、ある種の高度な専門家集団から成り立つ職場です。

各々専門性・自立性が高いという面から、一般企業の会社員と比較しても任される業務の責任範囲が非常に大きいと言えます。

さらに、ミス・失敗が許されない医療現場ならではの点や、多忙、狭い世界であることや旧態依然な縦割りといった人間関係といった点も理由となっているようです。

医療現場の最前線でご活躍される先生方は、このような環境下である事は重々ご認識されていらっしゃる事とは存じます。

しかし、その分、知らず知らずにスタッフへの対応がキツくなってしまう事にはご留意いただく必要があるかと存じます。

行き過ぎた熱意もパワハラに!

また、近年では旧態依然としたような典型的なパワハラ(暴力や理不尽な圧力等)とは異なるケースも見られるようになりました。

診療に対する熱意や育成したいとの想いで教育や指導が行き過ぎたものとなり、裁判でパワハラと認定されるに至るケースが増加傾向にあります。

内容としては正しい指導の範囲内であっても、意図した行為が行き過ぎてしまうケースがあり得ます。

例えば、「高圧的」「感情的」「攻撃的」であり過ぎるとパワハラ定義の②に該当し、それによって指導を受ける側が心身の健康状態に影響が出るとパワハラ定義の③に該当します。

よく、アンガーマネジメントの中でも触れられていますが、どうしても激情や熱意といった想いに心が流されそうになったら、その感情から逃げるということも手の一つです。

叱咤によって高められる職場環境ならまだしも、叱責によって職場全体が暗いというのはやはり避けたいですよね。

パワハラなどのハラスメント全体に言えますが、「10年前の職場環境の常識」ですら「現在の常識」と異なるケースがあり、今はどうなっているのかといった常に新しい認識が必要です。

実際にパワハラを回避するために

では、医療の現場でパワハラを回避するにはどの様な点に気を付けるべきでしょうか?

医師から看護師(セクハラになるケースもあるようですが…)、医師から患者(ドクハラ)は取り上げられますが、もちろん医師も被害者になり得ます。

そもそもこういったハラスメントは被害者の受け取り方による部分も大きいと言えます。

裁判例などでは、可愛がっていた(冗談だった)つもりでも、気づいた時にはその相手からパワハラで訴えられていた、というケースも見受けられます。

そうした部分も含めて、加害者ならないための行動や被害者になったらどうすべきかといった点について考えていきたいと思います。

加害者にならない為に!

留意すべきは、指導とパワハラの違いを認識する点です。

指導のつもりで行った行為も、行き過ぎると裁判でパワハラと認定されるケースも多くあります。

特に、卒後間もない若手医師に対しては、指導医として接するなど教育場面も多くあるかと思います。

その際には、自身の研修医時代に受けた指導方法を思い出し(時には反面教師として)、接する事を意識しましょう。

例え、ミスがあったとしても決して感情的にならず、口調や侮辱的な表現・態度を表さないように感情をコントロールすることが肝要です。

先ほども述べましたが、叱責と叱咤は別物であり、もちろん叱っても良いですが、そこに怒りの感情が乗るとパワハラだと相手が捉える可能性が高まります。

実際に若い方の中には「叱らない教育」や「褒めて伸ばす教育」を受けてきた方も多くいるため、そもそも叱られ慣れてない方も多い傾向にあります。

もちろん、咄嗟のミスや命に関わるようなミスに怒りの色を乗せない・大声で指摘しないといったことは難しいですが、もしそうしてしまった場合には後でしっかりとフォローしてあげると良いでしょう。

また、伝え方を工夫するのも一つの手です。

「ここはとても良かった」という褒めポイント(肯定的な意見)を先に述べてから、「だけどこの点に関しては、あってはならないミスだ」と厳しく、しかし淡々と指摘するのも手です。

そのように伝えることで、相手もこちらの意見を受け入れやすい素地をつくることができます。

ここまで読んで不安に思った方は、目に見えて不機嫌だったり話しかけづらい態度を出さなかったりするだけでも、環境が変わりますのでおすすめです。

もしコミュニケーションの仕方にお悩みの方は、併せてこちらもご一読いただくと良いかもしれません。

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被害者になったら!

先述の通り、被害者は看護師などが圧倒的に多いですが、もちろん医師も同じ医師間や他のコメディカルなどから被害を受ける可能性はあります。

パワハラ被害を受けていると認識した場合には、一番やってはいけないことは「我慢」です。

被害を受けたら我慢せず、早急に第三者へ報告・相談をしましょう。

その主な相談先としては2点あります。

  1. 勤務先のハラスメント相談窓口
    ご勤務先にパワハラなどの苦情処理窓口があるか確認しましょう。
    相談窓口は院内・院外(法人内・法人外)の2種類ある場合や、その片方しかない場合がありますが、どちらも同じものです。
    ただし院内(法人内)の担当者は専門家ではないため、その点が不安なのであれば、院外(法人外)の窓口に助けを求めるのも手かもしれません。
  2. 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)
    こちらでも同様にパワハラの相談を受け付けており、院外窓口がない/勤務先内で相談し難い場合にはこのような公的機関への相談が有益です。

また、パワハラで精神障害等を発症した場合には『労災保険の請求』もできる可能性があります。

詳細に関しては関係各所へご連絡・ご相談ください。

最後に

いかがでしたでしょうか?

近年はパワハラが問題視されるようになって久しく、世間の認識も徐々に広がりつつあるように思います。

ちなみに、パワハラは上司から部下のみに発生するものを指す言葉ではありません。

優越的な関係を背景とした言動、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、労働者の就業環境が害されるもの。
先ほど提示したそれらのことが当てはまれば、部下から上司、同期同士といった場合も「パワハラ」が適用され得ます。

(近頃は部下からのパワハラを「逆パワハラ」と呼称するケースも見られますが、本来それも「パワハラ」そのものに含まれます。)

「自分は上司じゃないから、相手に少しくらいきつくあたってもパワハラにならないし、大丈夫だ」なんてことはありません。

忍耐と我慢をはき違え心身を削って働けなくなってしまった──なんてことのないよう、是非この機会に「パワハラ」に対する意識をアップデートしていただければと思います。

また、現在の職場環境などで転職をお考えの先生方がいらっしゃいましたら、是非医師ジョブにご相談くだされば幸いです。


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