医師の残業(時間外労働)問題FAQ!残業の様々な疑問にお答えします

医師の残業(時間外労働)問題FAQ!残業の様々な疑問にお答えします

医師の残業(時間外労働)問題FAQ!残業の様々な疑問にお答えします

若葉茂る初夏の気配が近寄ってきています。

ゴールデンウィークを迎え、医療機関によってはお休みというところもあれば、輪番対応や普通にご勤務があるという方もいらっしゃるかと思います。

ところで、先生方の中で残業がある方はいらっしゃいますか?
実際にそのような質問をしたことはありませんが、そう尋ねるとすれば、ほとんどの先生が手を挙げるかと思います。

よく医師の残業は当たり前だという話も聞きますが、残業に関して色々と疑問に思ったことはありませんか?

今回は、2022年4月現在、実際に過去にあった医師の残業・時間外労働問題に関して改めてメスを入れてみたいと思います。

医師の残業(時間外労働)問題FAQ

給与明細に記載されていた「法定内残業」と「法定外残業」の違いがわかりません。

簡潔に申し上げますと、法定労働時間を超えているかどうかの違いです。
なお、法定外残業の場合のみ労働基準法に定められた割増率で賃金を支払うことが義務づけられており、ここが大きな違いだと言えます。
担当者からの解説

詳細に説明しますと、勤務先の1日の所定労働時間が法律で定められた上限の8時間未満の場合、その所定労働時間を超えて8時間まで働くことを「法定内残業」と呼称します。

1日8時間を超えて働いた場合は、皆さんの知る残業として「法定外残業(時間外労働)」として呼称します。

言い換えれば、勤務先の1日の所定労働時間が法律で定められた上限通り(1日8時間)の場合には、法定外残業しか発生しません。

法定外残業の場合には、労働基準法に定められた割増率で賃金を支払わなければならず、残業時間・時刻によって大きく変動します。

反して、法定内残業に対しては割増賃金の支払い義務はありません。

週5日勤務の際、1日7時間(週35時間)や1日7.5時間(週37.5時間)といった所定労働時間の場合、所定労働時間を超過した時間が法定労働時間未満の場合には法定内残業として算出します。

多くの場所は法定内残業として算出していますが、事業所などによっては所定労働時間を超えた場合は一律割増賃金で計算するというところもあるようです。

気になることがあれば、労働条件明示書などの残業の規定が記載されているものを確認しましょう。

 

今の病院に部長として入職しましたが、診療科長から「部長は管理職なので残業代は出ない」と言われました。
本当に残業代は出ないのでしょうか?

部下の人事・採用権がなかったり、勤怠管理がなされていたりする場合は、名ばかり管理職である可能性が高いです。
こちらのご質問のみだと子細がわかりかねますので、現在の環境なども含めて関係各所にご相談ください。
担当者からの解説

2021年5月、宮城県のある病院が全ての医師を管理職として位置づけ、残業代などを支払わなかったとして是正勧告を受けました。

また、過去にも2008年4月に滋賀県のある病院が各診療科の部長職以上を管理職として位置づけ、残業代などを支払わなかったとして是正勧告を受けたこともありました。

一定のご年齢の方が覚えがあるかと思いますが、一時期「名ばかり管理職」という言葉がメディアで取り上げられていましたよね。

何故そんな問題が起こるかというと、そもそも労働基準法上の管理監督者を拡大解釈している例が多いためだと思われます。

確かに、管理監督者に関しては労働基準法第41条2項に記載がある通り、割増賃金や休日に関しての規定はありません。

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
(中略)
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
(後略)
労働基準法

一方で「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきもの」と定めています。
参考:厚生労働省 昭和22年9月13日付け発基17号・昭和63年3月14日付け基発150号

その上で、小売店舗の店長などを管理監督者と規定して割増賃金を未払いとする件が相次いだため、厚生労働省は改めて管理監督者に関して以下を定めています。

  1. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
  2. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
  3. 現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
  4. 賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

肩書きがあっても、先述の通り、部下の人事採用権などがなかったり、上長に指示を仰ぐ場面が多かったり、労働時間に対して厳格な管理がされていたりする場合は、管理監督者とは言い難いのです。

ただし、詳細に関してはやはりそれぞれのケースによって対応が異なります。

そのため、実際に先生が置かれている状況に沿って対応するのであれば、早急に関係各所へのご相談をおすすめします。

 

業務の引継ぎで毎日1時間ほど早く業務を開始しなければならないのですが、上長から「この時間は労働時間にあたらない」と言われました。
本当に労働時間にはならないのでしょうか?

詳細に関してはしっかりと確認する必要がありますが、文章を読む限りでは、業務の引継ぎは労働時間にあたると思われます。
担当者からの解説

そもそも労働基準法上の労働時間とは何かというと、以前、実際の裁判にて労働基準法上の労働時間の意義が争われた際に、判例で以下のように示されています。

一、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。
最高裁判所判例集(最一小判平12.3.9 民集54-3-801)

つまり、特定の業務時間は労働時間とは含めないという就業規則があったとしても、法律上はそれに左右されません。

労働者が雇用主の指揮命令下に置かれている時間そのものを労働時間として含めます。

また実際の判例においても業務の前準備・後処理として大多数の出勤が暗黙の了解となっている場合でも、使用者の黙示の指示があったとして労働時間として認められています。

細かく精査する必要はありますが、当該業務が必須になっている/行わないと業務上難しいと判断できれば、労働時間として認められる可能性が非常に高いです。

例えば、夜勤看護師・当直医師による担当患者の引継ぎの申し伝えや電子カルテの共有・確認などは、診療の準備として業務上行わなければならないと解釈することができます。

そのため、今回に関しては労働時間に含められると考えられます。

ただし詳細に関してはご質問からは全てを読み取ることができませんので、法人などの先方担当者に確認するか、弁護士の方にご相談されるのが良いかと思います。

 

自宅でのオンコール待機(宅直)の時間は無給なのですが、法律上は労働した扱いにはならないのでしょうか?

一概に言えませんが、「使用者の指揮命令下にある」と認められれば、労働時間の扱いになると考えられます。
担当者からの解説

初めに申し上げますと、自宅でのオンコール待機(宅直勤務)に直接関わる法律は存在しません。

例えば、自宅でのオンコール待機は月●時間までに抑えなければならない──といった法律などは存在しないため、簡潔に言えば明確な規制がない状態です。

しかし労働時間の扱いになるかどうかという話に関しては、医師が病院を相手取って当直勤務・自宅でのオンコール待機の残業代など賃金の支払い請求を行った有名な判決があります。

大抵、その手の話では、この判決を元に説明されることが多いと言えます。

上記宅直勤務が、割増賃金の請求できる労働基準法上の労働時間といえるか否かは、宅直勤務時間が「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」に当たるか否かによる。
(中略)
病院が宅直勤務に関する指揮命令を行った事実は、本件全証拠によっても認められない。
時間外手当等請求事件 – 労働基準関係判例検索|全国労働基準関係団体連合会

この件においては、自宅でのオンコール待機の時間を労働時間とは認められませんでした。

言い換えれば、医師たちが自発的に自宅でのオンコール待機の当番を組んでいた事実が認められた形となり、一部敗訴となりました。
反して当直に対しての賃金請求は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間だったと認められ、医師の訴えを認めて病院側に支払いを命じました。

つまり病院が医師に業務を行うよう指揮命令を行った事実が認められれば、宅直も労働時間として認められる可能性があります。

確かに自宅でのオンコール待機時間は、完全な自由な時間ではないため、ご負担が大きいことも理解できます。

法人によっては制度として待機時間に対しても宅直手当などを支給しているケースも見受けられ、一概に労働した扱いにはならないとは言い切れません。

もし勤務がつらいのであれば、詳細に関しては早急に弁護士の方などにご相談されるなり、法人の方と話し合われるなり、行動を起こすことをおすすめします。

 

時間外の診療などがありましたが、「固定残業代で設定された時間以上働いても超えた分の残業代が出ない」と言われました。
本当に残業代は貰えないのでしょうか。

診療は労働時間にあたるため、残業代の請求は可能です。
設定されている固定残業時間を超過した分の残業代も、支払われなければなりません。
担当者からの解説

例えば、月20時間の固定残業代が定められている場合、月の残業時間が固定残業時間を1分でも超過すれば支払う義務を負います。

重要なのは、固定残業代の制度を適用しているかどうかではなく、そもそも残業代が1分単位で支払われているかどうかです。

よく、固定残業代があるから残業代が出ない、という話も聞きますが、固定残業代は固定残業時間以内の場合に支払われる手当です。
超過した場合には、別途、その時間分は支払われなければなりません。

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固定残業代の注意点

ただし、残業代の請求には時効がありますので、未払い分の請求を検討している方は早めに行動しましょう。(労働基準法第115条)

 

定時後に、専門医の更新のために症例報告を作成しています。
しかし、上長からは「これは労働時間ではないため残業代は出ない」と言われ、その分の残業代は出ませんでした。
これは残業にはならないのでしょうか?残業代は請求しても大丈夫でしょうか?

文章だけを読む限りでは自発的な研鑽とみなされるため、労働時間とは定義されないと考えられます。
残業になるかどうかは、所属している医療機関の規定等によるため一概には言えません。
規定等でどのように定められているかを一度ご確認した方が良いかと思われます。
担当者からの解説

そもそも医師の研鑽は労働時間に含まれるのか、というのは曖昧なグレーゾーンになっていました。

働き方改革に本腰を入れた厚生労働省がこの件をしっかりと定義したのは、2019年7月のことでした。

当該研鑽が、上司の明示・黙示の指示により行われるものである場合には、これが所定労働時間外に行われるものであっても、又は診療等の本来業務との直接の関連性なく行われるものであっても、一般的に労働時間に該当するものである 。
厚生労働省 基発0701第9号 医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について

つまり、命令ではなく、自発的に研鑽を行うものに関しては労働時間に含まれないと定義されました。

今回の件は、厚生労働省の方で労働時間に含まれないもの(研鑽)の具体例を挙げており、そのうちの一つとして「専門医の取得や更新に係る症例報告作成・講習会受講等」と挙げています。

しかしながら、場合によっては労働時間に含まれる可能性もありますので、一度確認した方が良いかもしれません。

ただし、研鑽の不実施について就業規則上の制裁等の不利益が課されているため、その実施を余儀なくされている場合や、研鑽が業務上必須である場合、業務上必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をして行わせる場合は、当該研鑽が行われる時間については労働時間に該当する。
厚生労働省 基発0701第9号 医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について

また、法人によっては技術研鑽支援や専門医取得・更新支援のために、一部の研鑽を労働時間に含んだり、補助金を支払うなどの制度を規定に明記している場合もあります。
そのため、一概に残業に含まれないとは言い切れません。

まずは所属先の規定がどのようになっているかを確認することをおすすめします。

 

まとめ

残業をしないで済むのなら、しない方が良いに決まっている、という方も多いことでしょう。

残業をする/しないの前にある程度の残業・時間外労働に対する知識をつけておいた方が、何かの場面において役に立つのではないでしょうか。

さらに2024年4月には働き方改革も待ち受けており、医師の残業(時間外労働)が常態化している現状への改善も期待される一方、結局過労死ラインである不満なども既に噴出しています。

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