医師の退職は難しい!円満退職のポイントや手続きの流れ、申し出タイミングを解説

転職が当たり前と言われる昨今、医師にとっても転職・独立開業などは珍しい話ではありません。

転職や独立の意思が固まれば、次にしなければいけないのが現在の職場からの退職です。しかし、医師の場合はこの退職が一筋縄ではいかないケースがあります。特に現在は医師不足の問題もあり、スムーズに退職するためには様々な配慮が必要です。

退職時にトラブルになれば、狭い業界ゆえにそれが後々まで尾を引く可能性も否定できません。新しい職場で気持ちよく働き始めるためにも、医師の退職においては禍根を残さない円満退職を目指すことが大切です。そこで今回は、円満退職のポイントや手続きの流れ、申し出のタイミングなど、退職時に上手く立ち回るための方法を解説いたします。

医師退職の難しさと円満退職の重要性

医師の退職では、他業種と比べて引き留めなどのトラブルに見舞われやすい傾向があります。そのなかでスムーズに退職するためには、立つ鳥跡を濁さずの「円満退職」を目指すことが大切です。こちらではまず、なぜ医師は引き留めに遭いやすいのか、なぜ円満退職が大切になるのか、その理由を解説いたします。

慢性的な医師不足の職場が多いから

日本では、以下のように様々な側面において医師不足が生じています。

  • 医師総数の不足
  • 特定診療科における医師不足
  • 特定地域における医師不足
  • 病院勤務医師の不足
  • 特定時間帯における医師不足 など

医師が他業種よりも退職が難しい理由には、この医師不足が関係しています。勤務先が医師不足であれば、過労から退職を考えることもあるでしょう。しかし、慢性的な医師不足に陥っている職場では医師が一人辞めるだけでも診療体制に与える影響は大きく、医療機関にとっては退職が死活問題となる場合もあります。医師不足ゆえに代わりの医師をすぐに採用するのが難しい場合も多く、そういった職場で退職を切り出すと、あの手この手で引き留めに遭う可能性が高いのです。

医師の業界は狭いから

医師の場合、退職をしても以下のように様々なところで前職の同僚や上司とのつながりがあることが多いです。

  • 地域医療
  • 学会
  • 出身大学 など

そのため、あまり良くない辞め方をした場合、大学や学会で悪評を流されたり、将来のクリニック開業に支障が出るなどの問題が起こる可能性もあります。また、退職した病院の同僚と今後別の病院でまた一緒になることがあれば、お互い気まずい思いをするでしょう。さらに、強引な退職で職場に迷惑をかけた場合、もし仮に転職や独立が上手くいかなかった際に、古巣に戻るという選択も出来なくなります。
狭い医師業界で医師として臨床に関わり続けるには、無理な引き留めをされても円満退職を目指す必要があるのです。

退職の申し出タイミングと考え方

医師が円満退職をするうえで重要となるのが、退職の意思を申し出るタイミングです。こちらでは、「法律上の考え方」と「円満退職するための考え方」をそれぞれ解説いたします。

退職の申し出における法律的な考え方

まず、期限の定めなく働くいわゆる正規雇用の場合、原則は以下の民法267条第1項(期間の定めのない雇用の解約の申し入れ)に基づき、退職希望日の2週間前に申し出れば問題ないことになっています。

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。出典:民法 | e-Gov法令検索

ただし、退職2週間前の退職届が無効扱いとなるケースもあります。民法267条第3項には、“六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。”と記載されており、例えば年俸制はこれに該当します。医師は年俸制での契約も多いため、注意が必要です。

なお、各勤務先や雇用契約書のなかで、独自に「〇ヶ月前までに申し出ること」などと規定していることもあります。退職を考える際には、事前に就業規則も確認しておくとよいでしょう。

円満退職につながる考え方

勤務医は、その多くが患者さんや自分の担当業務を受け持っています。そのため、例えば人手不足の総合病院で「2週間後に辞めます」といきなり言えば、診療科はパニックになり、同僚から反感を買う可能性も出てくるでしょう。

医師が円満退職をするには、勤務先が自分の後任を見つける時間なども考慮することが大切です。余裕をもって、最低でも3~6ヵ月前には退職の意向を伝えるとよいでしょう。あまりに早く伝えすぎると居づらくなることもありますが、大学医局や自治体系の病院の場合、半年~1年前に申し出るのが暗黙のルールとなっているケースもあります。退局・退職した医師が身近にいれば、話を聞いてみるなど事前に情報収集が出来ると安心です。

 

医師が退職するまでの流れとポイント

医師が実際に退職する際には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。こちらでは、勤務医が退職する場合の一般的な流れとポイントを解説いたします。

1.退職の意思を伝える

退職を決めたら、まずは直属の上司に退職の意思を伝えるのが一般的です。退職の意思を伝えるベストな時期は、以下のどれに該当するかで異なります。

  • 医局に所属している場合

医局人事が決まる前、例年の人事連絡の時期の半年ほど前までに伝えるのが理想的です。次年度の体制が決まった後に退局を申し出ると、人員の組み直しなど大きな影響を与えてしまう場合もありますので、その点は特に配慮が必要になります。医局で独自ルールが定められている場合には、それに従うとよいでしょう。

  • 医局に所属していない場合

退職希望日の半年~3ヶ月前に伝えるのが一般的です。代わりの医師の採用や体制の見直しが必要となる場合が多いので、ギリギリでの申し出は避けた方がよいでしょう。グループ病院などは年度替わりに病院間で人事異動を行う場合もありますので、そのタイミングに合わせるのも一つの手です。

  • クリニックの勤務医の場合

クリニック勤務医の場合も、基本的には半年~3ヶ月前に伝えるのが一般的です。ただし、クリニックの規模によっては代わりの医師が見つかるまでは退職の受け入れを渋られるケースもあります。代替医師の採用にかかる時間を考慮し、なるべく早い段階で伝えた方が引き留めなどにも遭わず、結果としてスムーズな退職につながるでしょう。

2.退職日の決定

退職が受け入れられれば、次は具体的な退職日を決定します。その際、自分から一方的に伝えるのではなく、病院側の事情を踏まえて話し合いで決めるのが一般的です。ただ、開業や次の仕事が決まっている場合には、希望スケジュールを伝え早めに話し合いを始める必要があるでしょう。

3.退職届の作成と提出

退職届が必要かどうかは、勤務先によって変わります。自己都合の場合、提出を求められることが多いです。書式が定められていることもあるため、事前に事務部門に確認するとよいでしょう。渡す相手も勤務先によって異なるため、わからない場合は上司に確認し、失礼にならないよう手渡しすることが大切です。

4.引き継ぎ

引き継ぎは、患者さんのためにも大切なことです。必要事項をリストアップし、スケジュールを立てて引き継ぎを行うとよいでしょう。とはいえ、医師の場合はカルテがあるため、具体的にやることはそれほどありません。自分の受け持ちで気になる患者さんなどがいる場合には、個別の引継書を作成し、次の担当医や同僚に説明しておいた方がよいでしょう。

また、場合によっては退職日までに後任医師が決まらないこともあり得ます。その場合は担当の患者さんを別の医療機関に紹介する必要が出てくるケースもありますので、患者さんが不安にならないよう最後までしっかりとサポートしましょう。

5.挨拶回り

医療機関は基本的に交代勤務となっています。また、退職日当日は忙しいことが多いため、会えずじまいを防ぐために、退職の数日前からスタッフなどへの挨拶を始めるとよいでしょう。なお、メールでの挨拶も可能ではありますが、相手に返信の手間をかけることを考えると、直接会うのが理想的です。患者さんへの挨拶は、医療機関側と相談して決めるとよいでしょう。

勤務先から受け取るもの・返却するもの

退職時には、勤務先から受け取るもの・返却するものがそれぞれあります。受け取るものは郵送になるケースもありますので、必要に応じて事務部門に確認するとよいでしょう。

退職時に受け取るもの 退職時に返却するもの
・雇用保険被保険者証
・源泉徴収票
・年金手帳(事務部門に預けている場合)
・退職証明書
・離職票(次の職場が決まっている場合は不要) など
・健康保険証
・IDカード・名刺・名札など
・携帯・PHSなどの通信機器
・棚・ロッカーなどの鍵
・その他業務用の備品 など

 

医師の退職に関するよくある質問(FAQ)

退職トラブルを回避するためには、事前に起こり得るトラブルを把握しておくことも大切です。こちらでは、医師の退職でよくある質問とその答えをご紹介しますので、参考になれば幸いです。

退職の申し出を取り合ってもらえない

人手不足の職場や診療科の場合、

「今は忙しいから、また今度にしてくれ!」
「急に言われても困るから、少し時間が欲しい!」

など、退職を切り出しても取り合ってもらえないことがあります。こうした返答でうやむやにされないためには、相談の日程を具体的に決めることが大切です。「少し時間がほしい」と言われた場合も、自分のスケジュールを伝えたうえで、明確な答えを求めるようにしましょう。

退職の話を伝えたら嫌がらせが始まった

極まれなケースではありますが、退職の意思を伝えたり、退職届を出すと同時に嫌がらせが始まることがあります。いじめや嫌がらせへの対応としては、実際にされたことを細かくメモを取るようにし、あまりにも酷い場合は労働基準監督署に相談できるよう準備をしておきましょう。

ただ、あと数週間~数ヶ月で退職するのであれば、手間や労力なども鑑みて、労働基準監督署への相談や裁判所に訴えるなどの必要はあまりないかもしれません。それでも、念のために被害の内容はメモにとっておくことをおすすめします。

新しい勤務先は上司・同僚に伝えるべき?

新しい勤務先を伝えることで不利益を被ることはあっても、利益につながることは少ないです。特に現在の職場から強い引き留めに遭っている場合などは、新しい勤務先に悪評を流したりして転職を阻止しようとしてくる可能性もゼロではないため、安易に伝えるべきではありません。

新しい職場を伝える場合でも、退職の1ヵ月前など直前になるまで言わないケースが多いです。医局などの場合、誰か一人に言うと全員に伝わる可能性もありますので、無用なトラブルを避けるためにも注意が必要です。

まとめ

今回は、難しいといわれる医師の退職について、円満退職のポイントや手順などを詳しく解説いたしました。

医師不足の問題から慰留などのトラブルにも遭いやすい医師ですが、狭い医師業界では退職後に元職場の先生方と顔を合わせる機会も多くあり、様々な不利益を防ぐためにも円満退職を目指すことが大切です。

退職の一連の流れを把握したうえで、退職の申し出時期などは医療機関側の状況にも配慮しながら、先を見越して動くことがスムーズな退職につながるでしょう。退職を取り合ってもらえない場合もうやむやにしたり強引に押し切ったりせず、退職の意向をしっかりと伝えたうえでトラブルにならないよう話し合うことが大切です。

退職交渉は、転職活動と並行して行うことがほとんどです。同時並行で進めるのは大変ですが、そんなときは転職エージェントを活用するのもおすすめです。退職交渉自体は先生ご自身で頑張っていただく必要がありますが、転職先との交渉などはエージェントに任せられるため、先生の気苦労も減るでしょう。退職時期や伝え方を一緒に考えることも出来ますので、お困りの際はぜひご相談ください。