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◇ 医師ジョブマガジン 2023.11.28号 ◇
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個人的な話ですが、つい先日、競馬が好きな友人とばったり道で出くわしました。
その日は大きなレースがある日だったらしく、「自分の計算によると55%の確率でこの馬が来るから、この馬券で儲けた分で今度食事を奢るよ」という会話がありました。
言うまでもありませんが、この件は言い方を変えると45%の確率でその馬が来ないということになります。
しかし人間というのは単純なもので、そのことを聞いて「なるほど、じゃあ今度焼肉を奢ってもらおう…」という気になるものです。
いきなり何の話だろうと思われたかもしれませんが、こういったことは往々にして心理学的に使われる印象操作の手法です。
これは「フレーミング効果」と言う一種の認知バイアスです。
同じ情報でも、その情報を提示する方法(焦点の当て方)によって、意思決定・判断に影響を及ぼすという効果のことです。
ポジティブなことを伝えたい場合は利得を、ネガティブなことを伝えたい場合は損失を伝えると良いのだそうです。
この件は、1981年に行われたトベルスキーとカーネマンの実験が有名です。
実験では、患者600人に対して治療をするかどうかの意思決定に際し、200人が助かる/400人が亡くなると伝え方を2種類に分けて提示しました。
結果、200人が助かると伝えたところ72%が同意しましたが、400人が亡くなると伝えたところ22%しか同意しませんでした。
この効果は広告分野でよく使われており、宣伝文句は基本的にポジティブなことを伝えたいがために、主に利得が謳われます。
わかりやすく言えば、広告で「●●を試した方の7割が効果を実感!」という宣伝文句が多いのは、商品・サービスに対してポジティブな面を伝えたいからです。
また一般的にこの効果は年齢に比例して影響を受けやすくなる傾向にあるようです。
これは年齢が上がるとともに定性的な情報を学習し、その情報が意思決定に影響を及ぼしやすくなるためだとされています。
(定性的な情報というのは、例えば「上階に行く際は、階段を上るよりエレベーターに乗った方が疲れない」といった具体的な数値では表せない情報を指します。)
気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、この認知バイアスは先ほどの実験のように「医療的な意思決定」の際にも有用です。
先生方の中にも無意識のうちに使われている方が多いかもしれませんね。
たかがコミュニケーション、されどコミュニケーション。
相手の意思決定を促す際に使われるこうした心理学的手法は様々な書籍や論文にもなっているので、気になる方は読んでみてはいかがでしょうか。
──ちなみに冒頭の友人の結果がどうなったかというと、結局そのレースは言っていた馬が勝ったそうです。
が、他のレースで負けて結局収支的にはマイナスだったとのことですので、ポジティブな結果が伴うかは別問題みたいです。
このコラムは2023年11月に配信した記事です