リカバリーとは医療現場でどのような意味を持つ?種類や支援の方法を解説

主に精神科領域で使われる「リカバリー」という概念。

精神障害を持つ方が主体的な生き方を取り戻していく過程のことで、従来の病状回復という意味でのリカバリーとは区別されています。精神科以外ではあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、精神科に限らず医療全般においても汎用性の高い考え方です。

そこで今回は、リカバリーの意味や種類、具体的な支援方法や、リカバリー支援において意識すべきポイントなどを詳しく解説します。

リカバリーの意味とは?

リカバリーは、直訳すると回復・復旧などの意味を持ちます。しかし、医療現場におけるリカバリーとは、単に病気からの回復を意味するものではありません。主に精神科領域で使われる概念で、精神障害があっても患者さんが自分らしい生き方を主体的に実現していく過程のことをリカバリーと呼びます。
国立精神・神経医療研究センターでは、リカバリーの定義について以下のように紹介しています。

“米国の政府委員会によると、リカバリーとは、「人々が生活や仕事、学ぶこと、そして地域社会に参加できるようになる過程であり、ある個人にとってはリカバリーとは障害があっても充実し生産的な生活を送ることができる能力であり、他の個人にとっては症状の減少や緩和である」と定義されます。”

出典:リカバリー(Recovery) | 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター

このように、リカバリーの目標は患者さんごとに異なるもので、必ずしも疾患の完治を目指すものではありません。

リカバリーの種類について

リカバリーという言葉自体は、本来非常に多義的です。そのため、リカバリーは大きく「クリニカル・リカバリー」「パーソナル・リカバリー」「ソーシャル・リカバリー」という3つに分けて整理されることがあります。

クリニカル・リカバリー

クリニカル・リカバリーは病気自体の改善を目指すもので、臨床的リカバリーとも呼ばれます。症状の改善や機能の回復に重きを置き、専門家の主導で病気の寛解を目指すのがクリニカル・リカバリーです。

パーソナル・リカバリー

パーソナル・リカバリーは、患者さん自身が希望する自分らしい生き方の実現を目指す過程です。希望が実現したという結果ではなく、その実現に至るまでのプロセス自体がパーソナル・リカバリーになります。

クリニカル・リカバリーが専門家主導であるのに対して、パーソナル・リカバリーでは患者さんの主体性が重視されます。

精神科領域でリカバリーという言葉を使う際には、このパーソナル・リカバリーのことを指すのが一般的です。

ソーシャル・リカバリー

ソーシャル・リカバリーは社会参加の機会の拡大を目指すもので、社会的リカバリーとも呼ばれます。就労や住居・社会ネットワークなどを指標とすることが多く、仕事の獲得や定着、住居や生活の確立、コミュニティへの参加など、社会の中での居場所を得ることがソーシャル・リカバリーです。

リカバリーの具体例

リカバリーの目標は、患者さんの価値観によって様々な形が考えられます。精神障害を持つ方が希望するリカバリーの具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

 薬を減らすこと
 症状が緩和されること
 通学や仕事・家事に従事できること
 経済的に安定すること
 趣味や余暇を楽しむこと
 居場所を持つこと
 同僚やパートナーと関係性を築くこと
 自分の健康や人生をコントロールできること

リカバリーを支援する方法

リカバリーという概念が広がるにつれ、リカバリー志向のサービスや支援も広がりをみせています。ここでは、患者さんの主体的なリカバリーを支援するための具体的な方法や取り組みについてご紹介します。

医療・福祉現場でのリカバリー志向型の支援

リカバリー志向型の支援とは、患者さんが受け身で療養を続けるような専門家主導の支援ではなく、患者さん本人が定めた目標に向かう過程を専門家が支える、患者さんを主体とする支援です。

病棟やデイケア・訪問看護などの精神科医療の現場や、就労移行支援・就労継続支援事業所などの福祉サービスの現場では、チームや組織全体でリカバリーの概念を共有し、多職種で連携しながらリカバリー志向型の支援を行っています。

WRAP(ラップ)

WRAP(ラップ)とは、リカバリーを促進するためのセルフケア・プログラムです。「Wellness Recovery Action Plan」の略で、日本語では「元気回復行動プラン」と呼ばれています。自身も精神障害を持つメアリー・エレン・コープランドさんを中心に、アメリカの当事者グループによって作られました。

簡単にまとめると、日常生活を元気に過ごすために、そして調子を崩した際にも安定した状態に戻せるように、有効なプランを自分自身で考えておくというものです。セルフケアとして使えるほか、専門家が患者さんと共にリカバリーを実践するためのツールとしても使用されています。

リカバリーカレッジ

リカバリーカレッジとは、精神障害の当事者と支援者が共に学び合うコミュニティです。イギリスの国民保健サービスの一つとして、2009年に初めて開設されました。

治療的なアプローチではなく主体的に学ぶことでリカバリーを目指す教育モデルで、誰でも参加することが可能です。当事者と支援者によるコ・プロダクションをコンセプトとしており、皆が学生という対等な立場でリカバリーの促進に役立つ知識を学び合います。

IPS(個別就労支援プログラム)

IPS(個別就労支援プログラム)とは、精神障害を持つ方への援助付き雇用の一種です。IPS=Individual Placement and Supportの略で、1990年代にアメリカで開発されました。

精神障害を持つ方の働きたいという希望を尊重し、障害の重さに関係なく好みや強みを活かして働けるよう、包括的なサポートを行う個別就労支援です。訓練してから働くのではなく、働きながら訓練するという考え方が特徴となっています。IPSでは就労を治療的な手段と捉えており、働くことがリカバリーの重要な要素になると考えられています。

リカバリーストーリー(リカバリーナラティブ)

リカバリーストーリー(リカバリーナラティブ)とは、精神障害を持つ方が自身の回復過程について語ったり、同じように苦しんでいる当事者が回復していく体験談を聞いたりすることです。自身の経験を言語化することで自己理解が進んだり、他の当事者の話を聞くことで孤独感が緩和されたり前向きな気持ちが引き出されたりして、リカバリーが促進されると考えられています。

リカバリーストーリーは言葉や文章だけでなく、絵や音楽など多様な表現手段があり、ネット上に公開されているものもあります。

リカバリーを支援する際のポイント

リカバリーはあくまでも患者さんを主体とするものですが、その過程においては専門家の助けを必要とする場合が多くあります。では、患者さんの主体的なリカバリーを妨げずに効果的な支援を行うには、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。

ここでは、患者さんのリカバリーを支援する際のポイントについて解説します。

ストレングス

リカバリー支援において重要なのが、ストレングスに目を向けることです。ストレングス=その人が持つ強みのことで、性質や性格・才能・技能だけでなく、その人の関心や願望、そして環境などの外的要因もストレングスになり得ます。

障害があってもその人の強みが無くなってしまうわけではないため、患者さんの強みに着目し、その要素を活用してリカバリーにつなげる視点が大切になります。

アウトリーチ支援

アウトリーチ支援とは、必要な支援を受けられていない人に対して、行政や支援機関の側から働きかけて支援につなげていくことです。

精神障害の場合、外出できなかったり病識がなかったりと、様々な理由で必要な人に支援が届かないという状況に陥りがちです。周囲との接点を失ってしまっている場合も多く、そうした潜在層のリカバリーにおいては、支援者側から患者さんを訪問していくアウトリーチ支援が重要になります。

継続的・包括的なアプローチ

リカバリーは必ずしも右肩上がりの経過をたどるものではなく、紆余曲折を経ながら進んでいくプロセスです。そのため、定期的にフォローアップを行いながら、継続的な支援を行うことが大切になります。

また、医療的な支援や社会的な支援など、状況に応じて必要な支援を行うためには、専門家や支援機関が連携し包括的な支援体制を構築することも大切です。


まとめ

リカバリーとは、精神障害を抱えながらも自分らしい生き方を取り戻していく過程です。リカバリーの目標は人それぞれで、疾患の改善を目指すクリニカル・リカバリーや、就労や社会参加を目指すソーシャル・リカバリーと類似する場合もあります。

リカバリー支援においては患者さんのストレングスに着目し、その要素を活用してリカバリーにつなげていくことが大切です。また、アウトリーチ支援も含め、継続的・包括的な支援体制を構築することも重要になります。

症状と上手く付き合っていくというリカバリーの考え方は、診療科にかかわらず大事にしたい考え方です。