医師としてキャリアを積む中で、開業して自分のクリニックを持ちたいとお考えの先生もいらっしゃるでしょう。
クリニックを開業する場合、開業資金も含めて綿密な事業計画をあらかじめ立てることが大切です。しかし、これまで勤務医として働いていた先生にとっては、開業の具体的な方法や手順はわからないことも多いのではないでしょうか。特に資金面の不安は、開業を目指す多くの医師が頭を悩ませる部分です。
そこで今回は、クリニックの開業には実際にどのくらいの資金が必要になるのか、開業資金を左右する要素、診療科目別の必要資金・自己資金の目安、また開業資金の調達方法など、開業前に知っておきたい開業資金に関する情報をご紹介したいと思います。
医師が開業するときに必要な資金とは?
医師がクリニックを開業する場合、以下のような開業資金が必要となります。
土地建物購入費 | その名の通り、土地・建物を購入する際にかかる費用のことです。 なお、賃貸借の場合には購入費用ではなく賃貸借料となり、敷金・礼金などを含んだ費用の用意が必要です。 |
仲介手数料 | 土地・建物等の購入や賃貸借を行う際、売主・貸主と買主・借主の間に入って仲介した者(不動産会社)に支払われる費用です。 成功報酬となるため、仲介してもらった契約(取引)が成立した場合にのみ支払います。 なお、宅地建物取引業法によって、不動産会社に支払われる仲介手数料には定められた上限額があります。 |
医療機器購入費 | 診療にあたり必要な検査機器などの医療機器を購入する費用です。 こちらには電子カルテや予約システムの導入といった費用も含めて考えますが、科目などにより必要な機器は異なります。 |
採用費 | 看護師や事務など、必要な人員を採用するための費用です。 特に看護師を含めた有資格者の採用は時間がかかることもあるため、余裕をもって採用活動を始めた方が良いでしょう。 |
広告宣伝費 | クリニックを広告するために必要な広告・宣伝費用です。 チラシの作成や配達、WEBサイト作成や運営、WEB広告、継続的なマーケティングなどの費用がかかりますが、クリニックの開業を広告することを考えると開業前に必要な費用の一つです。 なお、医療法によって、広告可能な事項に関しては制限があるため注意が必要です。 |
備品購入費 | クリニックに必要な備品の購入費用です。 ・診察室の備品(デスク、チェア、パソコン・タブレット端末など) ・待合室、受付の備品(レジスター、待合用ソファー、傘立て、テレビ・モニターなど) ・スタッフルーム、裏方の備品(ロッカー、金庫、シュレッダー、電話、診察券用のカードや紙など) ほか なお、税務上、備品と消耗品は異なるため、注意が必要です。 |
消耗品購入費 | クリニックに必要な消耗品の購入費用です。 ・日用品(トイレットペーパー、ティッシュ、電球など) ・医療消耗品(アルコール消毒液、ペーパータオル、ガーゼ、手袋など) ・事務用品(文房具、印鑑、CDなどの記憶媒体、領収証などの用紙など) ほか なお、税務上、備品と消耗品は異なるため、注意が必要です。 |
etc…
具体的にどのくらいの資金が必要になるかは、どのようなクリニックを目指すかによって大きく変わります。
開業資金を左右する3要素
クリニックの開業資金は、主に開業形態・開業地域・診療科目の3要素から決まります。
開業形態は、大まかに「戸建て」「テナント」「医療モール」の3種類に分けられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、初期投資額や融資の受けやすさなども変わってきますので、ご自身の目指すクリニック像や経営方針と照らし合わせた上で、現実的な選択を心掛けましょう。
開業地域は土地代や賃料だけではなく、診療ニーズにも影響してくるので注意が必要です。患者利便性や地域特性のほか、競合クリニックとの兼ね合いや周辺の他診療科との相性など、開業時にかかる費用だけでなく開業後の運営も考慮して選定する必要があります。
診療科目は、科目の違いはもちろんその診療範囲によっても院内設計や導入すべき医療機器が変わり、資金も変動します。導入する機器によっては技師の人件費などもかかりますので、リースを活用して初期費用を抑える、検査は外部との連携でカバーするなど、経営戦略を考えた上で判断できるとよいでしょう。
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「戸建て」「テナント」「医療モール」の特徴
- ▼戸建て
比較的自由度が高く、理想の開業を実現させやすい形態です。ただ相応の打ち合わせ時間が取られることや、準備期間が長くなることを念頭にいれておく必要があります。
▼テナント
最も費用を抑えられる方法ではありますが、特殊工事が難しい場合もあるため、事前の確認が重要です。
▼医療モール
集患しやすい利点があるものの、一般的なビルに比べると賃料や管理費用は高くなります。
開業には自己資金も必要
医師がクリニックを開業する場合、金融機関などから融資を受けるケースが一般的です。ただし、自己資金をある程度用意できなければ、融資を受けられない可能性があります。ある程度の自己資金が融資の条件となっている場合もありますし、自己資金なしで申し込みできる融資でも審査が不利になりやすいです。
自己資金は開業資金の1~2割が目安となります。有利な条件でより多くの融資を受けるためにも、開業後の資金ショートを防ぐためにも、あらかじめ事業計画・資金計画をしっかり立てることが肝心です。
【診療科目別】開業資金・自己資金の目安
先にご紹介した通り、診療科目やその診療範囲によって、開業時に必要となる費用は変わります。こちらではおおよその相場として、診療科目別に必要となる開業資金・自己資金の目安をご紹介します。
開業資金の相場 | 自己資金の目安 | |
内科 | 5,000万~8,000万円 | 500万~1,600万円 |
整形外科 | 5,000万~9,000万円 | 500万~1,800万円 |
皮膚科 | 2,000万~6,000万円 | 200万~1,200万円 |
眼科 | 5,000万~7,500万円 | 500万~1,500万円 |
耳鼻咽喉科 | 5,000万~8,000万円 | 500万~1,600万円 |
小児科 | 4,000万~6,000万円 | 400万~1,200万円 |
産婦人科 | 5,000万~6,000万円 | 500万~1,200万円 |
泌尿器科 | 3,000万~5,000万円 | 300万~1,000万円 |
心療内科・精神科 | 1,500万~3,000万円 | 150万~600万円 |
内科
内科の開業資金の相場は、5000万~8000万円程度です。自己資金は500万~1600万円程度準備できるとよいでしょう。
内科クリニックは、一般内科の他に専門領域の診療をどの程度行うかによって必要な設備が大きく変わります。例えば、消化器内科で上下内視鏡にも対応する場合、検査室・回復室にトイレも複数必要になるなど、機器の導入に加えてスペースも広く確保する必要があり、一般内科単科で開業するよりも多くの資金が必要になります。
整形外科
整形外科の開業資金の相場は、5000万~9000万円程度です。自己資金は500万~1800万円程度準備できるとよいでしょう。
整形外科クリニックは、リハビリテーションをどの程度充実させるかによって必要な資金が大きく変わります。また、理学療法士や作業療法士などの人材確保も必要になります。必要最低限のリハ設備を厳選して導入すれば、初期費用を低めに抑えることも可能です。
皮膚科
皮膚科の開業資金の相場は、2000万~6000万円程度です。自己資金は200万~1200万円程度準備できるとよいでしょう。
皮膚科クリニックは、保険診療がメインであれば広いスペースも必要なく、設備代も抑えることが可能です。ただし、美容用のレーザー機器を導入する場合には、必要資金が一気に上がります。美容皮膚科メインのクリニックの場合、開業資金が1億円前後かかるケースもあると言われています。
眼科
眼科の開業資金の相場は、5000万~7500万円程度です。自己資金は500万~1500万円程度準備できるとよいでしょう。
眼科クリニックは診療範囲によって必要な資金が大きく変わります。手術に対応する場合、手術を行わない場合に加えて2000万~3000万円程度の設備代が上乗せされます。立地・患者層によって診療ニーズも異なりますので、地域特性に合わせた治療範囲の設定が必要になります。
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科の開業資金の相場は、5000万~8000万円程度です。自己資金は500万~1600万円程度準備できるとよいでしょう。
耳鼻科クリニックは診療ユニットや周辺機器のほか、聴力検査用の防音室なども必要になるため比較的広いスペースが必要になります。説明用のカメラやモニターを設置するクリニックも多いです。また、手術の有無によっても必要な設備が変わります。
小児科
小児科の開業資金の相場は、4000万~6000万円程度です。自己資金は400万~1200万円程度準備出来るとよいでしょう。
小児科クリニックは、大型の医療機器は必要ないケースが多いです。しかし、スペースは広く確保する必要があります。感染性の強い病気のための隔離室や動線確保が必要で、保護者同伴の来院が基本となるため待合室も広く取る必要があります。院内にキッズスペースを設けることも多いです。
産婦人科
産婦人科の開業資金の相場は、分娩なしの場合で5000万~6000万円程度です。自己資金は500万~1200万円程度準備出来るとよいでしょう。
産婦人科クリニックは、手術・分娩・不妊治療の有無によって必要な資金が大きく変わります。分娩にも対応する場合、病床確保が必須となるため必要資金がかなり上がります。不妊治療も高度生殖医療まで行う場合、開業資金は1億円前後かかるケースもあるようです。
泌尿器科
泌尿器科の開業資金の相場は、3000万~5000万円程度です。自己資金は300万~1000万円程度準備できるとよいでしょう。
泌尿器科クリニックは、導入する設備によって必要な資金が変わります。結石破砕装置など高価な機器もありますので、要不要を冷静に判断する必要があります。他科と比べると患者側の受診ハードルが高いため、あえて目立たない立地を選ぶことで、土地代や賃料を低めに抑えることも可能です。
心療内科・精神科
精神科・心療内科の開業資金の相場は、1500万~3000万円程度です。自己資金は150万~600万円程度準備できるとよいでしょう。
メンタルクリニックは、他科と比べて開業費を少なく抑えられます。処置室・検査室・大型設備などが不要で、広いスペースも必要ありません。あまり目立たない方が好ましいため、立地面でも費用が抑えられます。看護師の配置も必須ではありません。診療科の特性から、内装に関してはプライバシーへの配慮が必要となります。
開業資金の調達方法は?
クリニックを開業する場合、自己資金以外の足りない分は融資などによる資金調達が必要となります。資金調達方法には様々なものがあり、それぞれ条件や特徴が異なります。こちらでは、主な資金調達先をご紹介いたします。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、比較的低金利で融資を受けることが可能です。法人格を持たない個人事業主でも申し込みが可能で、クリニック開業資金の調達先としてメジャーな選択肢の一つになります。融資の種類に応じて各種条件が設定されており、無担保で利用できる制度もありますが、審査が甘いわけではないので注意が必要です。
民間の金融機関
銀行や信用金庫などの民間の金融機関では、開業医向けの融資プランを提供しているところも多いです。金融機関によって融資額や条件は異なるので、自分に合ったものを選ぶことが大切になります。開業資金のほか運転資金も借り入れ出来るケースも多く、柔軟に対応してもらえる点がメリットですが、審査ハードルは高めです。有利な条件を引き出すには交渉力も必要になります。
リース会社
医療機器や各種設備のリース会社から、開業資金を借り入れることも可能です。機器や設備のリースを考えている場合には選択肢の一つになり得ます。審査がスピーディーでハードルも低めと手軽さが魅力ですが、仕組み上金利は高くなるため注意が必要です。融資期間や限度額などはリース会社によって異なります。
補助金・助成金
国や地方自治体から支給される補助金・助成金を開業資金として活用できるケースもあります。補助金・助成金は基本的に返済不要です。ただし、一定の条件を満たさなければ申請出来ないので、あらかじめ確認が必要となります。補助金・助成金だけで開業資金をまかなうことは難しいですが、リスクは低いので他の融資と組み合わせて積極的に活用するとよいでしょう。
まとめ
今回は、クリニックの開業資金に関して詳しくご紹介しました。
開業に必要な資金は、クリニックの形態・立地・診療科目などによって大きく変わります。多くの資金が必要になりますが、全額自己資金で用意する必要はなく、大部分は金融機関などから融資を受ける形が一般的です。融資を受ける方法は複数ありますので、条件や特徴を吟味し、自分に合ったものを選ぶことが重要になります。
いきなり個人開業を目指すのはハードルが高いと思われる場合は、まずは開業支援のある法人やクリニックへの転職も視野に入れるとよいでしょう。勤務医として働きながら経営ノウハウを学んだり、雇われ院長として管理医師の経験を積んだりすることも可能です。
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