医師が留学するメリット・デメリットは?費用や奨学金についても解説

医師がキャリアアップを目指すにあたって、選択肢の一つとなる「海外留学」。

研究でも臨床でも、様々な分野で活躍する医師の中には留学経験者が少なくありません。海外留学で最新医療に触れ研鑽を積むことは、帰国後のキャリア形成においても有効であると言われています。

しかし、海外留学には多額の費用がかかるため、気軽に行けるものではありません。また、日本も優れた医療技術を有する医療先進国であり、わざわざ海外留学をする必要があるのかと迷われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、医師の海外留学に関してその目的やメリット・デメリット、また留学にかかる費用や奨学金などについてご紹介したいと思います。

医師の留学は2種類

医師の留学形態は、大きく分けると「研究留学」と「臨床留学」の2種類があります。研究留学と臨床留学は、同じ留学とはいえその目的や意義は大きく異なります。

研究留学

研究留学は、その名の通り研究を目的とする留学です。医師の海外留学として最も多いのがこの研究留学で、海外の医療機関や研究所などで、日本ではあまり研究されていない最先端の治療法などの研究を行います。大学院で博士号を取得後、5年以内にポスドクとして留学するのが一般的です。自力で受け入れ先を探すのは大変なため、大学医局などのバックアップのもとで留学するのがメジャーですが、近年はフリーで留学先を探すケースも増えています。

研究留学の場合、留学先の医師ライセンスは必要ありません。語学力試験の受験・提出なども必須ではありませんが、英語をはじめ留学先の母国語は話せるに越したことはないでしょう。

臨床留学

臨床留学は、臨床医としてのスキルアップを目的とする留学です。留学先の医療機関で実際に働いて、患者さんの手術やケアに携わります。初期研修終了後から2~4年程度で留学するのが一般的です。ただし、外科系の場合は臨床医としてしばらく経験を積み、一通りの手技を習得した後に留学するケースも多いです。

臨床留学の場合は留学先の医師ライセンスが必須となるため、研究留学よりハードルがかなり高くなります。ライセンスの取得には国ごとに厳しい基準が設けられており、語学力に関しても読み書きはもちろん、患者・医療従事者とのコミュニケーションを想定した高いレベルが要求されます。

医師が留学するメリット

海外留学は、医学研究・臨床技術の向上はもちろん、その他にも様々なメリットがあります。

最新医療を学べる

海外留学では、日本にはない最新の治療法や医学知識を学ぶことが出来ます。日本も世界的に優れた医療技術を有する医療先進国ですが、海外の医療先進国と比べて後れを取っている部分もあります。

研究においては資金や人材などの面で日本よりもアメリカの研究室の方が優れており、献体数も多く恵まれた環境で研究に打ち込むことが可能です。臨床においても、移植領域など日本ではなかなか見られない症例に立ち会える機会も多く、技術力・応用力を高めることが出来るでしょう。

キャリアアップにつながる

規模が大きい病院では、留学経験のある医師も少なくありません。医師がキャリアアップを図る上で、留学で身につく知識や経験は、その後も大いに役立つものになります。留学でグローバルスタンダードを学び、最新の医学研究や臨床技術に触れることは、帰国後もキャリアアップの推進力となるでしょう。

また、留学で得られた人脈を活かせば、海外で働くという選択肢も増えたり、帰国後も海外と共同研究を行ったりと留学を活かしたキャリア形成が可能になります。

異なる文化・言語を学べる

海外留学をすることで、医療に関する知識・技術だけではなく、留学先の文化や言語も学ぶことが出来ます。特に語学力は研究においても臨床においても必須となり、専門的なワードへの理解も必要となるため、かなりの向上が期待できるでしょう。

英語力が身につけば、国際的なコミュニケーションの場や英語での論文執筆でも有利になります。独自の風習や意識の違いを学べば、国際的視野を高め医師としての知見を広げることも可能です。

自信がつく

海外留学によって知識や経験を積み重ねれば、その経験が医師としての自信につながります。異なる文化や言葉の壁を乗り越えることで、一人の人間としても大きく成長することが出来ます。異国での生活・研鑽は決して簡単なことではありませんが、それに挑戦しやり遂げたという事実はその後の医師生活の糧となるでしょう。

医師が留学するデメリット

海外留学には沢山のメリットがある一方で、費用や生活面でのストレスなど、やはりデメリットもあります。

費用がかかる

留学先や期間によっても変わりますが、医師の留学には多額の費用がかかります。家賃や生活費だけで毎月10~30万円はかかるので、それだけで少なくとも100万円以上は必要です。さらに留学の準備費用としても平均100万~300万円は必要となります。

研究留学の場合、最低限の給与が支払われるか、無給になることも珍しくありません。臨床留学でもライセンス取得や採用が決まるまでは無給、給与が支払われるようになっても日本の医師の平均給与と比べるとかなり低めになりますので、留学前の貯金は必須となります。

ストレスが生じやすい

海外留学は、なにかとストレスが生じやすい環境と言えます。まず、文化や言葉が異なる地で生活すること自体がストレスの原因になりやすいです。語学力によってはスムーズに言葉が通じないストレスもありますし、留学先によっては治安の面での不安がストレスになることもあるでしょう。

また、多額の費用がかかる関係上、経済的な不安からストレスが生じることもあります。時間や慣れが解決する部分もありますが、過度なストレスでメンタル不調に陥らないよう注意が必要です。

失敗するリスクがある

多くの留学経験者の活躍を目にすると、留学=成功と考えてしまいがちです。確かに医師が留学で得られるものは多いですが、中には留学先に恵まれず、これといった業績を上げられないまま帰国となるケースもあるといいます。

また、留学自体が実りあるものであっても、帰国後にそれを活かせなかったという声もあります。特に医局などのバックアップなしで留学した場合には、帰国後のポジション探しに苦慮することも多いようです。費用や時間を浪費しないためにも、事前のリサーチや目標設定が重要になります。

医師の留学なら奨学金・助成金を活用しよう

前述の通り、医師の留学には多額の費用がかかります。費用の工面が難しい場合には、海外留学をサポートしてくれる財団などに応募して、奨学金や助成金を受けることも可能です。応募先の財団はいくつかあり、2~3年で300万円程度支給されるケースが一般的です。

ただし、受給にあたっては留学中の収入や研究内容・勤務期間といった条件が細かく規定されています。また、ほとんどの場合で採用枠が限られており、医療機関などの推薦状が必要な場合もあります。倍率も高く、応募したからといって必ず支給されるわけではないので注意が必要です。自身の条件にマッチするものがあれば、なるべく多くの財団に積極的に応募するとよいでしょう。

研究留学の助成団体例
・独立行政法人 日本学術振興会
・公益財団法人 第一三共生命科学研究振興財団
・公益財団法人 国際医学研究振興財団
・AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構) ほか

まとめ

今回は医師の海外留学の目的やメリット・デメリット、奨学金などについてご紹介しました。

医師の留学には研究のための研究留学と、臨床医としての技術力を高めるための臨床留学の2種類があります。医師の留学として多いのは研究留学で、臨床留学はより条件が厳しくハードルが高めです。

海外留学には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

海外留学のメリット 海外留学のデメリット
・恵まれた環境で海外の最新医療に携わることが出来る

・留学で得た知識・経験・人脈がその後のキャリアアップにつながる

・異文化に触れることで国際的視野を高められる

・留学を通して医師としての自信がつく

・多額の費用がかかり十分な収入も見込めない

・生活面でも経済面でもストレスが生じやすい

・留学で得られることは多いが失敗するリスクもある

金銭面の負担に関しては、奨学金・助成金で補うことも可能です。留学を本格的に検討する段階で、利用できるものがないか確認するとよいでしょう。

これまでは医局を経ての留学がメジャーでしたが、近年はフリーでの留学も増えているといいます。また、民間の大手医科グループでも留学制度や奨学金制度を設けているところもあり、退局しても留学を諦める必要はありません。海外留学を検討されている先生は、転職も視野に入れて考えてみてはいかがでしょうか。