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◇ 医師ジョブマガジン 2023.05.16号 ◇
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毎年5月12日は国際看護師の日であり、フローレンス・ナイチンゲールの誕生日です。
当人は呼ばれるのを嫌がっていたという話ではありますが、「クリミアの天使」、「ランプの貴婦人」という呼称でも著名な方です。
彼女がクリミア戦争において、衛生管理の概念を徹底したことはあまりにも有名です。
しかし彼女が有名な理由は、そのことだけではありません。
戦地からの帰還後、現在の「レーダーチャート」に近いグラフで視覚的に死者数・その原因を月毎にまとめた統計を出しました。
(それは後に感染症が蔓延しないよう衛生管理を徹底すべきであるという論説のエビデンスとなっています。)
ちなみに英国では統計学の先駆者としても著名なのですが、それはこの際の統計が画期的だったことが理由の一端です。
また、ボランティアによる救護団体の設立には反対していたという話も有名です。
ナイチンゲールは、「看護を行う者は労働として職であるべきであり、賃金が必要」という考えを示しています。
というのも、当時の看護師はただ世話をする存在、つまりは召使の延長と認識されていました。
そのために、看護を行う者たちが専門的な知識を学ぶ機会など特にありませんでした。
その看護を行う者たちに、職業として専門的な養成体制を整えさせ、給与を払うように待遇を整えたことは彼女の功績の一つです。
今では当たり前に仕事としての選択肢に入るようになっていますが、いわゆる「看護師」という存在の基礎となった人物とも言えます。
しかし、これらの功績の原点として、彼女がジェントリ階級であったことは留意すべき点です。
ジェントリ階級ゆえの財産、教育、人脈などで、院内衛生の環境を整えたり、丁寧な統計を取ったりすることができました。
もし彼女の出身がさらに下の階級であったならば、これらのことが起こるのはもう少し先の未来であったかもしれません。
また、当時のイギリス国王がヴィクトリア女王であったことも少なからず影響があったと言えます。
階級社会のイギリスで、当時ジェントリ階級とはいえ女性が活躍するには、どうしても問題が多かったようです。
ところが彼女は、最終的にヴィクトリア女王をも味方につけ、男性社会の陸軍や関係各省大臣相手に舌戦を繰り広げています。
そのあまりの「豪胆さ」に当時の関係者の中には彼女を恐れる声もあったようですが…。
とはいえ、ナイチンゲールという人物の功績を抜きに看護師や衛生の概念を語ることはできません。
死後、110年以上過ぎた現代においても、ナイチンゲールの存在感は大きいと言えますね。
※このコラムは2023年5月に配信した記事です