勤務医として働く先生のなかには、医療法人が経営する医療機関にお勤めの方も多いでしょう。
医療法人には「医療法人社団」と「医療法人財団」の2種類がありますが、その違いについてはあまり意識したことがない先生も多いかもしれません。社団と財団は設立基盤が異なり、それぞれ特徴も異なります。
今回は、医療法人社団について、財団との違いやメリット・デメリットなどを比較しながら解説します。
医療法人の定義
医療法人とは、病院や診療所・介護老人保健施設・介護医療院などの開設を目的に、医療法のルールに則って設立された法人です。
医療法人と個人開業の医療機関を比較すると、以下のような違いがあります。
医療法人の特徴
医療法人の特徴としては、以下が挙げられます。
- 出資持分(※)がないこと
- 非営利目的であること
- 医療行為にかかわる業務のみ(一部附帯業務も許可)設立が可能なこと
- 設立時には役員として原則理事3名以上と監事1名が必要であること
重要なのは医療行為にかかわる業務のみ設立が可能なこと、つまり病院・診療所などを開設する目的であることです。
(※)持分とは?
持分とは財産の所有権のことで、法人が解散する際などに出資した者に出資額に応じて払戻しまたは残余財産の分配を受ける権利をいいます。先述の通り、現在医療法人を設立しようと思っても、持分は認められていません。
なお、2007年4月以前は持分あり医療法人の設立が可能だったため、現在でも一定数存在はしています。ただし現在、政府は持分ありで設立した医療法人に関しても持分なしの医療法人への移行を促しているようです。
医療法人社団と医療法人財団の違い
医療法人社団は人の集まりが基盤となっている一方、医療法人財団は寄付による提供財産が基盤となって設立されています。双方ともに持分が認められないことは同一ですが、財団は財産の基盤がある都合、社団より財産が安定していると言えます。
社団は出資以外に基金拠出型での設立も許可されており、つまり外部から基金を集めることで出資者以外からの集金も可能です。しかしながらこの基金は返還義務があるため、財団に比べて不安定になる可能性があるとも言えます。
また義務付けられている設置機関の違いも大きな違いの一つであり、医療法人社団は最高意思決定機関が社員総会と呼称され、医療法人財団は評議員会と呼称されています。この二つは性質も異なり、医療法人財団の評議員会は最高意思決定機関であると同時に諮問機関の性質も帯びています。
なお、それらの最高意思決定機関のほか、理事や理事会、監事を置かなければならないことは共通しています。
医療法人社団のメリット
医療法人社団のメリットとして、まず運営のしやすさが挙げられます。医療法人社団は一般的な会社に近い設立形態となっているため、運営も民間企業に近い形で行うことが可能です。設立件数が圧倒的に多いため、医療法人の設立に際して参考となる情報も多くあります。
また、設立に際して基金拠出型を選択できるため、寄付のみですべてをまかなう必要のある医療法人財団と比較すると、設立ハードルが低いというのもメリットでしょう。
医療法人社団のデメリット
医療法人社団のデメリットとしては、資金流出のリスクが挙げられます。医療法人社団を新設する場合、現在は基金拠出型での設立が一般的です。しかし、基金には返還義務が生じるため、返還による資金流出に備えなければなりません。資金繰りに影響が出ないよう、あらかじめ基金返還を見越した資産管理が必要になります。
また、医療法人社団の場合、法人財産と社員の個人財産を混同しやすいというのも注意しなければいけないポイントです。
医療法人財団のメリット
医療法人社団に続いて、ここからは医療法人財団について解説していきます。
医療法人財団のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 財産の安定性が高い
- 社会に対して好印象
それぞれ見ていきましょう。
1.財産の安定性が高い
医療法人財団は、寄付による提供財産を基盤に設立されます。寄付には返還義務がないため、運営資金に基金を用いる医療法人社団のように、返還による資金減少のリスクがありません。財産は法人の所有物となり、設立者や理事が個人として財産を持ち出すこともできないため、財産の安定性が高いというのが医療法人財団のメリットです。
2.社会に対して好印象
医療法人財団は、公共性や非営利のイメージについても医療法人社団より有利な面があります。かつて医療法人は出資持分あり・なしいずれでも設立が可能でしたが、寄付を基盤とする医療法人財団に関しては、そもそも昔から出資持分ありの医療法人は設立することができませんでした。
2007年以降は医療法人社団であっても出資持分ありの医療法人は設立できなくなりましたが、それ以前に設立された出資持分ありの医療法人社団は、現在でも多くが出資持分ありのままとなっています。
しかし、持分あり医療法人の出資持分の増額については、医療法人の非営利性に反するのではないかと指摘されており、これが持分あり医療法人が新設できなくなった一因でもあります。
医療法人財団はそもそも持分あり医療法人が存在しないため、法人運営の透明性や公共性についても好印象を持たれやすいのがメリットです。
医療法人財団のデメリット
では、医療法人財団のデメリットはどうでしょうか。デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 設立のハードルが高い
- 自由に営業ができない
こちらもそれぞれ見ていきましょう。
1.設立のハードルが高い
先述の通り、医療法人財団は個人や法人からの寄付を基盤に設立されます。医療法人社団のように基金を用いることができず、多額の資金をすべて寄付でまかなう必要があるため、設立に際して資金調達が大きなハードルになります。また、同族による寄付の場合、贈与税の対象となる可能性があるのもデメリットです。
上記のような理由から、医療法人財団の新設はかなりハードルが高く、現在ある医療法人財団は贈与税の課税以前に設立されたものがほとんどとなっています。
2.自由に営業ができない
医療法人財団の場合、運営体制として理事会とは別に評議員会の設置が義務付けられています。評議員会は理事の選任や解任、予算や事業計画の審議など、理事会のチェック機能を担っており、理事と評議員の兼任はできません。さまざまな制約が伴うため、医療法人社団と比較して運営の柔軟性に欠ける点がデメリットとなります。
医療法人社団の設立傾向
厚生労働省「種類別医療法人数の年次推移」によると、2024年3月時点の医療法人の総数は58,902法人、うち財団が394法人、社団が58,508法人となっています。(ただし、こちらの数字には歯科のみを扱う医療法人も含まれています。)このように、現状は医療法人のほとんどが「医療法人社団」です。
では、よく見かける【医療法人○○会】という表記の場合は、社団・財団のどちらなのでしょうか。種別の表記が「医療法人」で終わっている法人は、概ね「社団」または「財団」を省略しているだけです。そのため、種別としては「医療法人社団」か「医療法人財団」のいずれかにあたります。医療法人のほとんどがそうであるように、割合としては「医療法人社団」であることが多いようです。
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まとめ
医療法人には、人の集まりを基盤とする医療法人社団と、財産を基盤とする医療法人財団の2種類があります。
社団・財団それぞれにメリット・デメリットがありますが、設立ハードルや運営のしやすさでは医療法人社団、安定性や社会的なイメージでは医療法人財団に強みがあると言えます。現状は医療法人のほとんどが医療法人社団となっていますが、もし開業して法人を設立する場合などには、それぞれの特徴を理解したうえで検討できるとよいでしょう。
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