先生方の中には、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に関して動向を気にしている方もいらっしゃるかと思います。
100年に1度の未曽有のパンデミックとなっていますが、ワクチン接種に関して様々な報道がありました。
とある先生と面談などでお話をする中、その報道の話題となり、「歯科医のワクチン接種の注射と法律」に関して、疑問をいただいたことがございました。
いわく、「歯科医がワクチン接種の注射を行うという話を聞いたがそれは違法なのではないか?」ということです。
こちらとしても若干気になるお話でしたので、今回は「歯科医のワクチン接種の注射と法律」に関してまとめてみました。
「医業」
結論から申し上げますと、現状、日本で上記感染症の「ワクチン接種の注射」を許可されているのは、「医師」、「看護師」、そして「歯科医師」です。
先生方は医師ですのでご存知だと思いますが、医師の「ワクチン接種の注射」は明確に「医師法」第17条に定められた「医業」だからですね。
「医師でなければ、医業をなしてはならない。」
そしてこの「医業」が何を指すのか、は厚生労働省が既に解釈を通知しています。
「ここにいう「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。」
──医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)
看護師に関しては、「保健師助産師看護師法」第5条、第31条、第37条に基づく解釈から、以前から「医師の監督下で可能」な「診療の補助」業務という判断が下っています。
「看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。」
第三十一条 二項
「保健師及び助産師は、前項の規定にかかわらず、第五条に規定する業(※)を行うことができる。」
- 第五条に規定する業
- 保健師助産師看護師法 第五条
「この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。」
⇒ 傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うこと
「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。」
しかしながら今回の歯科医師に関しては、「歯科医師法」第17条に定められた「歯科医業」を考えれば、本来であれば行えない業務と解せます。
もっと言えば、一般的には「医師法」第17条の条文に反している為に「違法」という解釈になると言えます。
その点もあり、2月頃には政府が「薬剤師・歯科医師による接種は考えていない」と発言していました。
では、何故、歯科医も可能になったのでしょうか?
歯科医師も可能になった理由
3月末の厚労省の調査時に、集団接種会場を設置する自治体の約2割で医師・看護師の不足が発覚し、厚労省など関係各所が検討を実施。
結果、4月26日に一定の条件を満たせば違法性はないという判断が出ました。
理由としては、口腔外科領域での全麻などで筋肉注射を行う点や、歯科医師が麻酔時のアナフィラキシーなど初期対応も行う点、また歯学部で筋肉注射の教育が実施されている点からのようです。
つまり、今回のケースは「医師法」第17条との関係から違法性阻却例となったと言えます。
※違法性阻却
法律上違法とされる行為を特別な事情から違法ではないと否定すること
他に違法性阻却例を挙げれば、非医療従事者によるAEDの使用、介護職員による特養・在宅における喀痰吸引等の実施もそれにあたります。
ちなみに歯科医師による今回のワクチン接種は、下記の条件を満たす場合のみと限定とされました。
1、集団接種会場での接種に限る
2、上記会場の人員を医師・看護師で賄えない場合
3、患者本人が歯科医師による接種を同意した場合
勿論、これらの前提として協力する歯科医師が筋肉注射の経験者or必要な研修を受けた上、という条件があります。
最後に
歯科医師の中でも意見が割れているようですが、概ね歯科医師は好意的で、とあるサイトの会員アンケートでは77.3%が協力したいと答えたようです。
一方、医師が「歯科医師が協力すべき」と回答した割合は26.6%と開きがあります。
先生方はこの件についてどうお考えでしょうか。
難しい問題ですが、この件も含め、新型コロナウイルス感染症の問題自体が早く落ち着くよう祈るばかりです。
先生方もお忙しいかと存じますが、どうかご自愛くださいませ。