2021年の人口移動の状況─医療などへの影響を考える

新型コロナウイルス感染症の流行は、人々の暮らしを変えました。
特に人の移動という面においては、以前の通勤で電車を利用する人数の変動なども含め、かなり大きな変化が見られます。

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今回は、人の移動に着目して、医療などに影響を及ぼすかどうかも併せて考えていきたいと思います。

人口移動報告とは

2022年1月28日、総務省から「2021年度住民基本台帳人口移動報告」の結果が発表されました。

この報告は、住民基本台帳に基づき月々の人口移動の状況が報告されているのですが、それを1年間分まとめて翌1月に公表するものです。

月々の報告に関しては総務省統計局に公表されていますが、1年間分の報告は毎年メディアにも取り上げられるので見覚えがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ちなみにこの報告は2014年8月度から外国人居住者の移動も公表しており、日本人の移動だけでは見えない部分の理由も確認できます。

さて、その問題の人口移動に関してですが、新型コロナウイルス感染症の流行により2020年以降国内における人口移動の状況が大きく変化しています。

東京圏の人口移動

東京圏では、転入数が48万2743人、転出数が40万1044人、転入超過数は81,699人となりました。

今回、昨年と比べて一番動きがあったのは都内です。

2021年、東京都へ転入した人は42,0167人となりました。
逆に、東京都外へ転出した人は41,4734人、つまり東京都では転入者が転出者を上回る5,433名の「転入超過」でした。

しかしながらこれは2020年の31,125名の転入超過という数字と比較しても83%減となっています。
コロナ禍前の2019年の82,982名の転入超過数と比べても、ここ数年において大幅な数字の変動の様子が見られます。

 

一方で、神奈川県・埼玉県・千葉県の他の東京圏の3県はどうでしょうか。

2021年の神奈川県は転入者数は236,157名、転出者数が204,313名となり、31,844名の転入超過。
2020年の29,574名の転入超過という報告や、2019年の29,609名の転入超過と比べると、そこまで大きく変動していないどころか年々転入超過数に拍車がかかっていることがわかります。

埼玉県も、2021年は27,807名の転入超過でしたが、2020年は24,271名の転入超過、2019年は26,654名の転入超過と大きく変わってはいません。

この動きは千葉県も同様で、2021年が16,615名の転入超過、2020年は14,273名の転入超過、2019年は9,538名の転入超過とここ数年そこまで動きはありません。

 

都内だけこのような数字となった原因は、居住地の問題が大きいと言われています。
元々コロナ禍よりも前から、徐々に郊外や他の大都市圏に宅地を購入するなどして、都外への脱出という傾向はみられていました。

しかし、場所を問わず働けるテレワークを取り入れた企業や、テレワーク定着に伴う都心オフィスの縮小・移転というコロナ禍特有の理由も大きいかもしれません。
また、都内の家賃では高いことや、電車の乗り入れなどの理由により、必ずしも都内に住んでいる必要はなくなったという見方もできます。

それは東京都からの転出先にも表れており、最も多かったのは神奈川県に転出した人たちで、その数は96,446人。
次いで埼玉県が78,433人、千葉が58,485人、大阪が18,801人、愛知が13,254人などとなっています。

2021年の調査結果を図表にまとめるとこのようになります。

東京圏東京都神奈川県埼玉県千葉県
転入者数482,743420,167236,157189,683160,128
転出者数401,044414,734204,313161,876143,513
転入超過数81,6995,43331,84427,80716,615

※引用:総務省統計局「2021年度住民基本台帳人口移動報告」結果

名古屋圏の人口移動

名古屋圏は129,378人の転入者数の一方、転出者数が140,292人と10,914人の転出超過。
前年に比べて転出超過数は6473人減りましたが、外国人居住者の移動の統計をはじめた2014年から転出超過が続く形となりました。

 

愛知県単体で見れば、転入者数が120,423人、転出者数が123,170人となり、2,747人の転出超過となりました。
3年連続の転出超過となりましたが、昨年の7,296人の転出超過に比べれば差は縮まったという見方もできます。

 

岐阜県は転入者数が29,896人、転出者数が35,023人となり、5,127人の転出超過。
2020年が5,803人の転出超過、2019年が6,765人の転出超過とコロナ前から若干転出数は縮小したという見方もできます。

 

また、三重県は転入者数が30,417人、転出者数が33,457人となり、3,040人の転出超過となりました。
2020年が4,288人の転出超過、2019年が6,321人の転出超過で、コロナ前の2019年から比べると転出数は縮小したと受け取れます。

 

名古屋圏においては、数字で見るとおり転出超過の幅が縮小されたことで、転出超過ではあるものの少し回復したように見えます。

しかしこれはどちらかといえばコロナ前からそこまで大きく変動してはいないという見方が正しいかもしれません。

いずれにしても人口流出の流れが止まっていないことは確かです。

名古屋圏の2021年の調査結果は下記にまとめています。

名古屋圏愛知県岐阜県三重県
転入者数129,378120,42329,89630,417
転出者数140,292123,17035,02333,457
転入超過数-10,914-2,747-5,127-3,040

※引用:総務省統計局「2021年度住民基本台帳人口移動報告」結果

大阪圏の人口移動

大阪圏は213,662人の転入者数の一方、転出者数が218,574人と4,912人の転出超過となりました。
前年の118人に比べて、転出超過者が4,794人増えた形です。

 

今回の転出超過者数の増加の要因は、大阪府にあります。
大阪府は、転入者数が168,009人、転出者数が162,387人となり、5,622人の転入超過となりました。

ちなみに2020年が13,356人の転入超過、2019年が8,064人の転入超過です。

大阪府は2020年度の報告ではコロナ禍になって人の移動が急激に増加した都道府県の一つです。
とはいえ、その中身を見るとほとんど大阪市への転入が占めており、実際2020年には転入超過数が最も多い市町村となっています。

しかし今回の調査においては、大阪市の転入超過数は転入超過数が最も多い市町村順にすると4位。
コロナ禍で急激に起こった転入超過が抑えられた形になりました。

 

兵庫県は転入者数が91,589人、転出者数が96,933人となり、5,344人の転出超過。
2020年が6,865人の転出超過、2019年が6,038人の転出超過でしたので、徐々に転出数が縮小されています。

しかしながら神戸市の人口が僅かながら2020年の転出超過から2021年に転入超過へ回復したことは明記しなければならないところです。
これは外国人居住者も統計を取るようになった2014年以来、初めてのこととなりました。

 

京都府に関しては、転入者数が57,010人、転出者数が60,884人となり、3,874人の転出超過となりました。
2020年が3,947人の転出超過、2019年が2,688人の転出超過で、コロナ前の2019年から比べると徐々に転出数が縮小されています。

 

奈良県は転入者数が24,571人、転出者数が25,887人となり、1,316人の転出超過。
2020年が2,662人の転出超過、2019年が3,435人の転出超過と、コロナ前から比べると徐々に転出数が縮小されています。

 

大阪圏においては大阪府が7年連続の転入超過、それ以外の府県が9年連続での転出超となりました。
しかし大阪府以外は転出数の幅が縮小されているとはいえ、やはり減少傾向にあることには変わりありません。

今回の調査では、大阪圏から滋賀県への転出の急増が見られ、滋賀県の「京都・大阪のベッドタウン」的存在が際立つ形となりました。

要因として、やはりテレワークなどの影響で必ずしも大阪府に居住している必要がなくなったことが考えられます。

大阪圏の2021年の調査結果は下記にまとめています。

大阪圏大阪府兵庫県京都府奈良県
転入者数213,662168,00991,58957,01024,571
転出者数218,574162,38796,93360,88425,887
転入超過数-4,9125,622-5,344-3,874-1,316

※引用:総務省統計局「2021年度住民基本台帳人口移動報告」結果

大都市圏全体のまとめ

大都市圏全体では6万5,873人の転入超過となりました。
前年に比べれば1万5,865人少ない人数で、特に名古屋圏・大阪圏は数年来転出超過が続いている状況です。

ただし、大阪圏は大阪府のみ長く転入超過が続くことから、大阪圏から大阪府への一極集中の状況と言って良いでしょう。
全体的に転出傾向にある名古屋圏とは、問題の本質が異なっているように感じられます。

全体的に言えることは、どの都道府県でも概ね転入超過となっているエリアは、若い世代の転入が多く見られることです。

例えば東京や大阪などは有名な大学や企業も多く、また繁華街やショッピングモールなどサービス業も非常に多いのが特長です。
そうなると、必然的に若い世代の流入が増えるという計算です。

ちなみに、女性の動きが活発な都市圏はさらに転入超過の傾向にあります。

都市圏で比べると、全転入者数のうち女性の比率は大阪府が46%、東京都が47%だったのに対して、愛知県は41%。
たかが5%と思うかもしれませんが、この5%は「微々たる差」で片付けられません。

高齢化社会や女性の雇用問題なども騒がれる中、働き手である若い世代の転入が大都市圏の人口の鍵でもあるからです。

しかしながら、東京圏は東京都から他の東京圏への脱出が見られ、特に30~34歳は2014年以来初めて転入から転出へ転じた世代となりました。
この層は、いわゆる結婚して子育てをする世代であり、宅地購入などを検討する世代でもあります。

その世代が、東京から東京近郊の郊外へ出ていくという図式が見られました。

これはコロナ前からの動きではありますが、他の大都市圏とは異なる動きであるため、東京圏の特長と言えます。

しかしコロナ禍から数年のデータだけでは、見えないこともあります。
この動きが引き続き起こるのかどうかは、ウィズ・コロナやアフター・コロナの状況次第にもなりそうです。

医療などへの影響は?

さて、開業やビジネスをお考えの先生からすると、人の流れというのは抑えておくべきポイントだと思います。

人口の移動が医療などの今後にどのような影響が出るのか。
結局のところ、結論を先に述べるとそこまで大きな影響はないと言えます。

もちろん、過疎地などの医療が難しいへき地・離島地域になると話は異なりますが、大都市圏においてはそこまで影響は大きくないように思います。

医師の場合、ご出身・医局に属していた大学周辺や、知り合いの先生がご勤務されている地域、ご出身の地域など、伝手が広い傾向にあります。
そのため、都市圏を跨いだ移動にも、割と抵抗感のない方が一定数見受けられます。

ですが、一般の会社員等の場合、住み慣れた都市圏を跨いだ移動というのは、例えば転勤などや訳があって地元に帰らざるを得ないなどがない限りはそこまで積極的に行われない傾向にあります。

特にこれは東京圏で顕著で、先程も述べた通り、市町村別転入・転出超過の状況にも表れました。
上位20市町村をみると神奈川県が6市、千葉県が4市、埼玉県が2市と東京圏の東京都以外の県が6割を占めています。

また、東京都も23区外が2市ランクインしており、東京圏全体で見ると上位20市町村の7割が「東京圏の郊外の地域」という形となりました。

今回の人口移動に関してはテレワークへの移行や家賃・宅地の価格が低い場所へ移動という見立てもありますが、都市圏を跨いだ移動は多くありません。

実際、東京都の他東京圏三県への転出者は233,364人となり、全転出者の56%が神奈川県・埼玉県・千葉県への転出となる結果になりました。

これは例年平均とそこまで大きな差がなく、震災前年の2010年(しかも日本人のみの統計)でも転出者の53%が神奈川県・埼玉県・千葉県への転出という統計があります。

大都市圏に限って言えば、一極集中は緩和の傾向にありますが、それ自体がなくなることはないと言っても過言ではないでしょう。

ただし、医療においては、その郊外での医師数というのがまだまだ不足している状況です。
需要がますます高まっていくことを考えれば、都心や大阪市内・名古屋市内といった場所から少し外れた「郊外」や都市圏内の別の府県でのご勤務も視野に入れてみるのもおすすめです。

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最後に

お子様の就学環境のご心配や通勤の利便性などを考えて、転居も見据えた転職を行っている方もいらっしゃいますよね。

しかしコロナ禍の幾度かの緊急事態宣言発出なども相まって、あまり積極的には行わないというご意見もあるかと思います。

とはいえ、コロナ禍の転職においても、自らのスキルを活かしたい!というご希望や、地域医療にしっかりと取り組みたい!というご希望をお持ちの方の中には、エリアに拘らない方も見られます。

もちろん、都内へ帰りたいという考えや、地元へのUターンしたいという考えの方にとっては、エリアは重要ですよね。

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