以前から日本の「医師不足」は深刻な問題となっていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、さらに医師不足による影響が顕著になってきました。また医師の数は年々増加しているとも言われていますが、やはり地方での医師不足や診療科ごとの偏在は未だになくなりません。
そこで今回は、日本の医師不足の現状、それによって生じる医療現場の問題、医師不足の現状からみる医師転職のポイントについて順番にご説明していきます。
医師不足とは?
「医師不足」は、医師の勤務先となる病院や地域、診療科、国全体といったさまざまなところで起こっており、現在の医師不足の実情としては「絶対数不足」と「偏在(相対数不足)」の2つに分けて考えることができます。まずは日本国内で起きている代表的な事例やデータを紹介しながら、医師の絶対数不足と偏在がどのようなものなのかを確認していきましょう。
日本の医師における絶対数不足
日本は人口1,000人あたり2.4人の医師数ですが、これは先進国の中でも特に少ない数となっています。一方で他の先進国では、人口1,000人あたりの医師数はフランス3.4人、ドイツ4.2人と日本と比べると遥かに多い数字です。このように少ない医師数で世界トップクラスの高齢化社会を担い、過労死ラインを超えて働く医師がいる中、近年は新型コロナウイルスの感染拡大により対応に追われ、長時間労働にさらに拍車がかかっている状況もあります。
患者数に対する医師の絶対数不足
日本では、患者が受診する医療機関を自由に選択できる「フリーアクセス」を導入しています。これに加えて多くの日本人が大学病院志向であることから、結果として総合病院などで医師数に対しての患者数が多くなりすぎてしまいます。これにより長時間待ったあげく、わずか数分で治療が終わってしまうことを意味する「3時間待ちの3分治療」などが起こりうる可能性があります。
診療科偏在による医師不足
「偏在(相対数不足)」とは医師数の偏りのことを意味します。労働環境が著しく悪かったり、訴訟に発展したりしやすい以下のような診療科では、医師の負担が増えることで、人手不足が起こりやすくなっている傾向があります。
・外科
・小児科
・周産期
・救命救急 等
また近年の若い医師は「癌がない」「当直がない」「救急がない」が揃った「3ない科」に行きたがる傾向があり、特に上記のような科目や、「3ない科」に該当しなくても、先輩医師の働き方が大変そうな場合も嫌厭されやすい診療科になることもあります。
地域偏在による医師不足
国が公開した「2018年医師・歯科医師・薬剤師統計資料」によると、人口10万人あたりの医療施設に従事する医師数が最も多いのは329.5人の徳島県で、最も少ない169.8人の埼玉県と約2倍の開きがあり、医師数の地域格差がかなり激しいことがわかります。
順位 | 都道府県名 | 人口10万人当たりの医師数 |
1位 | 徳島県 | 329.5人 |
2位 | 京都府 | 323.3人 |
3位 | 高知県 | 316.9人 |
・ ・ ・ | ||
47位 | 埼玉県 | 169.8人 |
これだけでも格差が大きいことはわかりますが、国は2019年2月、地域の特性を考慮した以下のような基準を盛り込んだ新しい偏在指標も発表しました。
・医療ニーズ
・人口の年齢構成
・昼間人口と夜間人口の違い
・へき地などの地理的条件
・医療偏在の単位(診療科、区域、入院・外来) 等
以上の暫定的な指標の数値によると、最もスコアが高かったのは東京都で、反対に最も低かった岩手県とは約2倍の格差がありました。また二次医療県別のデータでは、最も高かった東京都の区中央部と最も低かった秋田県の北秋田には10倍以上の開きがありました。
各地域を比較すれば偏在にはなりますが、地方の場合はそもそも赴任希望者が少ないことで、絶対数不足にも陥っているケースもあります。
医師不足によって生じる医療現場の問題
ここまで説明してきた、「絶対数不足」と「偏在(相対的不足)」のどちらが原因であったとしても、医師が不足している医療機関や病院には、以下の問題が起こりやすくなる傾向があります。
医療サービスの質が低下する
今回の新型コロナウイルス感染拡大による医療や病床のひっ迫は、日本国内における医師不足の問題を露呈させました。行政でコロナ病床を確保したものの、重症患者などに対応できる医師が不足したことも一例としてあげられます。さらに実際には解消されたものの、コロナワクチン接種に携わる医師不足についても、当初は問題視されていました。先述した「3時間待ちの3分治療」についても医療サービスの質の低下の原因の一つです。医師が不足すれば、患者さんの話にも耳を傾けにくくなります。またコロナ禍で起きたように、手術に向けた入院や治療がスムーズに受け入れられなくなる可能性もあります。
離職者がさらに増える
医師不足により「3時間待ちの3分治療」と言われるような患者が集中する病院では、現場で働く医師や看護師などに大きな心身の負担が生じます。その結果、例えば医師が過労によるうつ病となり、現場を離れざるを得なくなると、残された医師の労働時間や残業も増え、その分の負担が大きくのしかかるため、ワーク・ライフ・バランスも充実させづらくなる、というような負のスパイラルに陥ってしまいます。
日本における医師不足の現状から見る医師転職のポイント
日本国内における医師不足は、病院などの医療現場や地域医療、それぞれの医師の人生、キャリアといった多くのところに問題を生じさせています。こうした問題が山積する状況で医師が転職を成功させるには、どのようなことを大切にすればいいのでしょうか。以下、ポイントを4つ解説していきます。
自己分析をする
ここまで説明したように、医師不足が生じている現場では、医療従事者の負担が増える傾向にあります。しかし、その負担が「すべての医師にとって悪いことか?」と言われると、そういうわけではありません。医師が不足する病院や診療科・地域では、日々の仕事が大変である反面、高賃金などの厚遇や、若手であってもベテラン医師並みの仕事を任されるなどのメリットもあります。また、離島などのへき地医療では、一人で島全体の患者さんに関わることが多いため総合診療能力を習得できる、地域住民との密なコミュニケーションによって大きなやりがいが得られる、休日に自然やアウトドアを楽しめる、などの魅力もあるかと思います。したがって、医師不足が生じている日本で転職する場合は、以下の要素のうち「何を重視するか?」といった転職目的を医師自身がしっかり考える必要があります。
・ワーク・ライフ・バランス
・高賃金などの厚遇
・将来のキャリア
・やりがい など
情報収集をしっかり行なう
求人だけでなく、医療機関の公式サイトや口コミなども見て、自分に合っているかどうかを総合的に判断しましょう。単身赴任や医師数などの懸念事項によって転職に踏み切れない場合、病院の理念や考え方なども大事な判断基準になってきます。ただし、インターネットで手軽に情報収集が出来ることはメリットですが、あくまで表面的なものであるため注意する必要があります。また都市から地方やへき地に行くときには、生活面の情報もチェックしましょう。そのエリアや病院で働く友人や知人がいれば、実際に「どんな職場か?」と聞いてみるのもいいかもしれません。
納得できなければ入職しない
医師不足が生じている日本では、体力やスキルに自信を持つ医師であっても、実際に入職してみたら「こんなはずじゃなかった!」と後悔してしまう方も多くいます。このような後悔をしないためには、疑問や不安要素をすべて解消し、納得したうえで入職を決めることが大切です。そのためには、まず自分の転職目的を明確にするとともに、問い合わせや応募をする医療機関の情報をしっかりと収集する必要があります。ただし、面接の際に給与などの待遇や福利厚生の質問ばかりをしてしまうと、仕事そのものへの関心が低い印象を与えてしまうため、注意が必要です。
医師の転職サイトや転職エージェントを利用する
以上のように日本国内では、さまざまな種類の医師不足が生じています。これはつまり、自分に合わない環境に入職することで、転職の失敗につながりやすい国であるとも言い換えられます。日本において医師の転職を成功させるには、医師ジョブのような転職求人サイトを活用するのも手段の一つです。
登録・利用は無料!医師のための求人紹介サイト「医師ジョブ」のサービス詳細をチェック
医師ジョブを利用する最大のメリットは、高いスキルを持つコンサルタントと二人三脚で転職活動ができることや、医師不足の現状についてももちろん把握しているため、人気のない診療科や地域への転職を求める医師にも、良き相談相手となり強い味方になってくれるでしょう。
まとめ
以上のように日本の医師不足が深刻化すると、医療サービスの質が低下するだけでなくそれにより離職者が増え、残された医師の負担も増加することになってしまいます。「医師不足」は、患者の生活にとっても大変深刻な問題ですが、医師の人生やキャリアにも影響を及ぼしてしまうのです。
しかし医師不足が起きている現場では待遇面が好条件になりやすい、総合診療医としてスキルアップができるなどのメリットがある場合もございます。
ワーク・ライフ・バランス、待遇面、やりがい、スキルアップなどご自身が何を重視するかをしっかりと決め、キャリアプランを考えていくことが大切です。また転職求人サイトや転職エージェント・コンサルタントを活用し、しっかりと情報収集を行うことも手段の一つです。その際は是非クラシスの医師ジョブにご用命ください。