医師が働く診療科は数多くあり、それぞれ診療内容や適性が異なります。
まだ専門を決めていない研修医の方のなかには、「どの科が自分に向いているのかわからない」とお悩みの先生も多いのではないでしょうか。専門診療科の選択は、その後の医師のキャリアを左右する大きな決断です。もちろん途中で転科をすることも可能ですが、最初から自分に合った診療科を選べるに越したことはないでしょう。
そこで今回は、主な診療科別の診療内容や、どんな人が向いているかという適性、さらに転職や転科でその適性を効果的にアピールするコツについても解説したいと思います。なお、適性はあくまでも一例になりますので、全ての方に当てはまるわけではないことはご承知おきいただけますと幸いです。
【診療科別】医師に求められる適性とは?
一口に医師と言っても、診療科ごとにその特性は大きく異なります。こちらでは、主な診療科ごとの診療内容や適性について解説いたします。
内科
内科は主に内臓や血液など体の内側の疾患を扱う診療科です。
基本的に手術は行わず、投薬による治療が中心となります。医師の数が最も多い診療科で、身体全体の疾患に対応するほか、サブスペシャリティ領域では呼吸器内科・循環器内科・消化器内科など臓器別に多岐に分かれます。
患者さんの訴えや症状から病気・治療法を探っていくため、コミュニケーション能力や洞察力が求められます。慢性疾患を抱える患者さんとは主治医として長い付き合いになるケースも多く、画一的な診療ではなく患者さんごとに最適な治療を提案する応用力も求められます。診療対象が幅広いため、多分野の知識を身につけるための勉強も欠かせません。
< 適正 >
- コミュニケーション能力が高い
- 洞察力・応用力がある
- 多分野への知識欲が高い
- 全人的医療に興味がある など
外科
外科は手術による治療を行う診療科です。
急性疾患や重篤な疾患を扱うことが多く、外傷や救急なども含め幅広い診療に対応します。内科同様、外科という大まかな括りから、消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・脳神経外科など臓器別の専門診療に細分化されます。
手術にはチーム連携が欠かせないため、多職種とのコミュニケーション能力が必須となります。また、手術は気力・体力共に消耗するため、プレッシャーに強くハードワークに耐えられる胆力も必要です。さらに、手技の習得には研鑽・練習に熱心に取り組むことが求められます。
< 適性 >
- コミュニケーション能力が高い
- プレッシャーに強い
- バイタリティがある
- 研鑽・練習にひたむきに取り組める など
整形外科
整形外科は骨や筋肉といった運動器の機能改善の治療を行う診療科です。
投薬や装具などを用いた保存療法のほか、手術も行います。外傷、加齢による関節疾患、スポーツ障害、関節リウマチなど扱う疾患は幅広く、扱う部位別に脊椎外科・手外科・関節外科などに細分化されます。
患者層が幅広いため、年齢問わずスムーズにコミュニケーションを取る能力が求められます。慢性疾患や長引く治療では、メンタル面のケアにも配慮が必要です。手術や手技においては、ある程度の腕力・体力が必要な場面もあれば、マイクロサージャリーなど器用さ・繊細さが求められる場面もあります。スポーツ経験者が多く、体育会系の印象が強い診療科です。
< 適性 >
- コミュニケーション能力が高い
- スポーツや人体構造に関心がある
- タフである
- 専門領域を極めたい など
眼科
眼科は目に関する疾患全般を扱う診療科です。
症状や疾患に応じて、投薬による治療のほか手術も行います。合併症の治療では、他科と連携して診療を行う場合もあります。また、近視や遠視に対するメガネ・コンタクトの処方や、レーシック・ICLなどの保険適用外の治療も扱います。
専門性の高い診療科のため、スペシャリストを目指す先生に向いています。患者数が比較的多いため、テキパキと診療をこなす必要があるでしょう。手術はマイクロサージャリーを用いた細かい作業になるため、体力的な負担は少ない一方で集中力が求められます。
< 適性 >
- 一つのことを徹底追求できる
- テキパキと行動できる
- 細かい作業が得意
- 集中力が高い など
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は耳・鼻・喉を中心に、首から上の症状を幅広く扱う診療科です。
聴覚・嗅覚・味覚など、QOLに大きく関わる領域が診療対象となります。内科や小児科と重なる部分もありますが、内科的治療に加えて外科的手術も行います。元々専門性の高い診療科ですが、担当領域によって耳・鼻・咽頭・喉頭・神経など専門はさらに細分化されます。
多種多様な疾患を扱うため、患者層は新生児からご高齢者まで幅広いです。患者数も多めですが、診療自体は外来や日帰り手術で済むものが多いため、比較的ワークライフバランスに優れている傾向にあります。
< 適性 >
- コミュニケーション能力が高い
- 専門的な治療に関心がある
- 患者さんのQOLに関心がある
- 幅広い年齢層を治療したい など
皮膚科
皮膚科は全身の皮膚や爪に関する疾患を扱う診療科です。
外用薬や内服薬による治療のほか、小手術も行います。主に皮膚症状の改善を担い、軽度の肌荒れから火傷・皮膚腫瘍・褥瘡・脱毛症など扱う疾患は幅広いです。皮膚外科領域は、形成外科で扱うケースもあります。また、美容診療とも関連が深いです。
大がかりな検査や手術は少ないですが、その分多くの患者さんをテキパキと診療する必要があります。また、皮膚症状はアレルギーや内臓疾患由来のものもあるため、診断には広い視野と洞察力が求められます。働き方として、夜間対応がなく残業も少ない傾向から、女性医師が多く半数以上を占めているのも特徴です。
< 適性 >
- 肌に関心がある
- テキパキと行動できる
- 洞察力がある
- 美容に興味がある など
精神科
精神科は精神的な疾患を扱う診療科です。
うつ病や気分障害、統合失調症などのほか、薬物やアルコールの依存症、認知症、発達障害なども対象になります。精神疾患の治療がメインになりますが、身体合併症の対応が必要になるケースも多く、ある程度の内科的知見も必要です。
診療では、患者さんの話を聞くことが重要になります。会話や説明が苦手な患者さんも多いため、話を上手に聞き出す能力が必要です。患者さんに寄り添ったケアが求められる一方で、感情的にならず冷静に対応することも求められます。日々精神疾患と向き合うなかで自身がメンタル不調に陥らないよう、オンオフを切り替えてしっかり息抜きをすることも大切です。
< 適性 >
- 心と身体の両方に関心がある
- 聞き上手である
- 常に冷静でいられる
- ストレス耐性が高い など
小児科
小児科は子供の疾患を総合的に扱う診療科です。
年齢の範囲は病院によって異なりますが、一般的に乳幼児~中学生を中心に15~18歳までが診療対象になります。学校の集団健診や、保護者の養育指導に関わることも多いです。小児に特化した内科医の役割を担い、より専門的な治療や手術が必要な場合は各専門科や小児外科へと引き継ぎます。
子供は症状を言葉で上手く説明できない場合も多いため、思いを汲み取る能力や状態を見極める洞察力、臨機応変に対応する応用力が必要になります。診察を嫌がる子供に対して、粘り強く向き合う忍耐力も必要です。また、治療には親御さんの協力も不可欠になるため、親御さんと良好な関係を築くことも重要になります。
< 適性 >
- 子供好きである
- コミュニケーション能力が高い
- 洞察力・応用力がある
- 忍耐力がある など
産婦人科
産婦人科は周産期や女性特有の疾患・症状を扱う診療科です。
診療内容は産科と婦人科で分かれており、産科では妊婦健診や分娩・産前産後のケアなど、婦人科では月経異常や子宮・卵巣・乳房の疾患、更年期障害、不妊治療など幅広く女性特有の疾患を扱います。産科・婦人科共に手術も行います。
産科では分娩を扱うため、勤務時間のコントロールが難しく長時間労働になりがちです。夜間対応や緊急対応も多く、ハードな働き方が求められます。また、中絶や流産などのデリケートな対応では、精神的なタフさも必要になるでしょう。診療対象が女性という特性上、女性医師が好まれる傾向もあります。
< 適性 >
- 生命の誕生に携わりたい
- タフである
- プレッシャーに強い
- 女性の心身に寄り添える など
救急科
救急科は緊急度が高い患者さんを24時間体制で治療する診療科です。
比較的軽症の患者さんから重症の患者さんまで、科目問わず幅広い症状・疾患の初期対応を行います。院内の救急外来のほか、ドクターヘリやドクターカーで現場に駆け付けたり、災害や事故の現場で災害派遣医療チームの一員として働いたりするケースもあります。
チーム医療が基本となり、さまざまな科と連携して診療を行うため、多職種との円滑なコミュニケーション能力が必須です。マルチタスクになる場面も多く、何をすべきかを瞬時に判断し、冷静に対応することが求められます。業務の見通しが立てにくく勤務中は気が抜けないですが、シフト勤務を導入している場合も多く、オンオフのメリハリある働き方が可能です。
< 適性 >
- コミュニケーション能力が高い
- マルチタスクをこなせる
- 判断が早い
- 常に冷静でいられる など
医師が適性をアピールする際のコツ
ここまでは、各診療科の診療内容や適性について解説してきました。診療科ごとの適性は、診療科選択時だけでなく、転職や転科の際にも重要視されるものです。ここからは、転職・転科をする際に、適性をどうアピールすべきかを解説いたします。
具体的なエピソードを交える
書類や面接で単に適性をアピールしても、それを裏付ける根拠がなければ説得力に欠けるでしょう。採用側を納得させるには、その適性が実際にどう役立ったか、具体的なエピソードを交えて伝えることが大切です。アピールポイントを明確にした上で、それが発揮された経験や実績を具体的かつ簡潔にまとめられるとよいでしょう。
適性の活かし方を伝える
採用側にとって一番重要なのは、採用した医師が入職後に活躍してくれるかどうかです。過去の経験や実績ももちろん大切ですが、適性やエピソードを伝えるだけではアピールとしては少し物足りません。その適性が今後の仕事でどう役立つのかという部分まで伝えられると、採用側も入職後の活躍がイメージしやすくなり、高評価につながるでしょう。
2004年の新臨床医研修制度によって医局の制度が大きく変化し、大学医局から離れて新たなキャリアを積んでいく、という働き方…
まとめ
今回は、主な診療科ごとの診療内容や適性について詳しく解説いたしました。
医師としての働き方や診療内容は、診療科ごとに大きく異なります。そのため、診療科ごとにどんな人が向いているのかという適性も変わってきます。何科を専門にすべきか決め切れないという場合には、自身の性格と適性を判断材料の一つにするのもよいでしょう。
また、適性というのは転職や転科の際にも重視されるものです。適性を上手くアピールできれば、選考でも良い評価を得やすくなるでしょう。適性を仕事にどう活かせるか、具体的なエピソードを交えながら伝えられると、効果的にアピールすることが可能です。
なお、繰り返しになりますが、適性は絶対的なものではありません。当てはまらないケースも多分にありますので、あくまでも参考程度に診療科選択や転職・転科などに活かしていただければ幸いです。