年賀状や暑中見舞い・残暑見舞いもそうですが、誰かに手紙をお出しする機会も少なくなってきました。
メールやSNSといったネット上の通信が容易になり、人と人の距離が近くなった今日この頃。
それでも先生方も含め、手紙を出す機会が完全にゼロになったわけではなく、宛名を書き入れる緊張感というのはやはりあるものです。
今回は、医師ジョブのエージェントが担当するコラム記事として、「手紙の脇付のお話」を実際のエージェントの体験と併せてご紹介します。
若干、与太話に近いかもしれませんが、もしかすると先生方にも思い当たることがあるかもしれません。
エージェントコラム「手紙の脇付」
タイトルが全てではありますが、先生方はこの脇付に戸惑った経験はありますでしょうか。
前職でのことになりますが、自分が初めて先生方と関わる機会をいただいた際、一番戸惑ったことがこの手紙の脇付です。
一旦、下書きの状態で上司に確認してもらおうと思って持っていきましたら、一行読んだだけで返され、この一言。
「君ね、医者の先生方宛てだっていうのに、脇付に「様」は失礼でしょう。」
まさかそんな指摘が飛んでくるとは思わず、えっ…?という戸惑いが先行した苦い思い出があります。
代わりに付けなさいと言われた脇付が、「侍史(御侍史)」か「机下(御机下)」。
初めて聞いた時には、心の中で「一体なんて読むんだ…!?いや、それより先生宛に「様」って失礼なのか!?」と叫んでいました。
きっと初めてこの脇付に触れた先生も戸惑った方がいらっしゃるのではないでしょうか。
「侍史(御侍史)」・「机下(御机下)」
そもそも「脇付」というのは、封筒・手紙を書く際に宛名の左下に付ける語のことです。
そして「侍史(御侍史)」と「机下(御机下)」は、近年において医師相手にしか使われない特殊な脇付でもあります。
ということで、自分のためにも二つの読み方や意味合いなどを簡単に図表にしてみました。
脇付 | 読み方 | 意味 |
侍史(御侍史) | じし (おんじし・ごじし) | 先生に直接手渡すのは遠慮し、あえて傍にいる方にお渡しいたします。 ※注:ご多用な先生の手を煩わせるのは恐れ多いので…という意味合い |
机下(御机下) | きか (ごきか) | 先生の机の上に置くのは躊躇われましたので、机の下に置かせていただきます。 ※注:あまり重要な手紙ではないので…という意味合い |
とはいえ、この言葉自体は誤りだ、という話もあります。
色々調べた結果としては、本来は「侍史」・「机下」が正しいようですが、時代が下るにつれて「御侍史」・「御机下」も広く受け入れられている状況です。
言葉は変化するものという話もありますが、「失笑」などと同じで、やはり知っている人が見れば気になる誤用というところでしょうか。
ちなみにいつ頃からかはわかりませんが、既に戦国時代では「参(まいる)」・「参人人御中(まいるひとびとおんちゅう)」・「恐恐謹言(きょうきょうきんげん)」などが使われていたとか。
そしてこの時点で「侍史」も使われていたそうなので、かなり歴史のある(!)脇付かもしれません。
とはいえ、有名な武将宛ての手紙宛てにも複数こういった脇付が見受けられるようなので、既にこの時代では広く使われていたとみて良さそうです。
江戸時代においても、女性のみに使われる脇付などのパターンが多彩になり、本などで脇付がまとめられていた様子があります。
これが明治時代まで下って、政治家や学者、軍人、華族などの身分が上の方などに「侍史」や「机下」をはじめ、「座下(ざか)」、「玉案下(ぎょくあんか)」、「膝下(しっか)」といった脇付が見られます。
昔は医師に限らず目上の方などに使われていた脇付が、医師の中でのみ慣習的に残ったという見方もできそうですね。
江戸時代の手紙について、脇付の種類(「人人御中」「申し給え」)、またそれぞれの脇付がどのような相手に… | レファレンス協同データベース
結局のところ…
でも上記の脇付の良いところを挙げれば、性別に関係なく使えることです。
多様性が謳われる現代において、性別で区別しない表記というのはとても良いことだと思います。
しかし身分制度などの背景もあって続いてきた脇付ですので、戸惑う先生や、時代遅れだから改めたいと考える先生もいらっしゃいます。
一方で、紹介状などの他の医師への書類を書く際に、会ったことのない先生にいきなり「様」の脇付をする勇気はない、という話もお聞きします。
実際、この件は議論になることもあるようで、面接の場で先生方同士でこの件に関して盛り上がったこともありました。
いざ自分が書く側になるとやっぱり「~先生 机下」を使うという声や、マナーに厳しい年上の先生にいきなり「様」は厳しいという話、結局は古い慣習かもしれないという話など。
ただ、コメディカルなどに同姓同名の人がいた際、机下などがあるとすぐ誰宛てかわかりやすいという話もあったりしたので、そういうこともあるのだなと思ったりもしました。
結局のところは、先生方同士の信頼関係などにも寄るので、難しい問題のように感じます。
最後に
最近はクラークなどが付くようになったので、あまり紹介状などを書く機会もなくなったという方もいらっしゃるかもしれません。
年賀状なども徐々に出さなくなっている方が増え、手紙自体を書く機会もかなり減っています。
手紙は相手の顔が見えない分、文字や脇付などの部分で印象が定まってしまいやすいと言えます。
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