知っておくべきモンスター・ペイシェントの原因や対処法とは?

知っておくべきモンスター・ペイシェントの原因や対処法とは?

知っておくべきモンスター・ペイシェントの原因や対処法とは?

近年、医療の現場で増加傾向にあると言われる「モンスター・ペイシェント」。

医療機関や医療従事者に対して悪質行為をはたらく患者のことを指し、対応に悩まされた経験がある先生もいらっしゃるのではないでしょうか。モンスター・ペイシェントの標的になると、診療が妨げられたり、精神的に疲弊したり、風評被害を受けたりと、様々な悪影響を受ける可能性があります。

モンスター・ペイシェントに遭遇した場合、医師として適切に対処することが大切です。そこで今回は、モンスター・ペイシェントの実態や、医師の応召義務との関連性、患者のモンスター化の原因やその対処法などを詳しくご紹介したいと思います。

医師を困らせる「モンスター・ペイシェント」とは?

モンスター・ペイシェントとは、医療機関・医療従事者に対して理不尽な要求をしたり、迷惑行為に及んだりする患者、またはその家族や知人のことを指します。診療が滞ったり、スタッフが精神的被害を受けたり、自院の評判を下げられたりと、医療機関に様々な悪影響をもたらしかねない困った存在です。

モンスター・ペイシェントの事例

モンスター・ペイシェントの主な事例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 些細なミスに対して理不尽なクレームをつける
  • 診療内容に納得せずに院内に長時間居座る
  • 待たされたことに腹を立て大声で怒鳴る
  • 言いがかりをつけて医療費を踏み倒そうとする
  • 医師やスタッフに対して暴言や暴力をふるう
  • 医師やスタッフに対してセクハラ行為を繰り返す など

正当な苦情ではなく、不当な要求やモラルに欠けた自己中心的な言動がモンスター・ペイシェントの特徴と言えます。

モンスター・ペイシェントの現状

近年、医療現場におけるモンスター・ペイシェントは増加しており、勤務医・開業医を問わず約7割の医師がモンスター・ペイシェントの被害を受けた経験があるとの調査結果も出ています。患者本人だけではなく、その家族や知人から被害を受けるケースもあり、その矛先も医師・看護師・事務スタッフなど様々です。稀なケースではありますが、モンスター・ペイシェントとのトラブルが原因で事件に発展した例もあり、医療機関・医療従事者にとってモンスター・ペイシェントは看過できない問題となっています。

しかし、一般的なクレームとモンスター・ペイシェントの線引きは難しい場合も多く、現状はひたすら謝罪する・耐えるといった選択を余儀なくされるケースも少なくありません。モンスター・ペイシェントに遭遇した際に落ち着いて対応するためにも、医療機関も医療従事者も適切な対処法を学ぶ必要性が高まっています。

医師の応召義務とモンスター・ペイシェントについて

モンスター・ペイシェントへの対応として、あまりにも酷い場合は診療の拒否を考えることもあるでしょう。その際に気になるのが、医師の応召義務との関係性です。

医師法19条第1項では、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」[1]と定められており、これを一般的に「応召義務」と呼びます。医師には応召義務があるため、正当な事由がなければ患者を拒否することは出来ません。

しかし、逆に言えば正当な事由があれば、診療を拒否することも出来るのです。例えば、モンスター・ペイシェントの行為はこの「正当な事由」に当てはまるケースが多く、以下のような場合は診療を拒む正当な事由として認められます。

  1. 迷惑行為を繰り返された結果、患者との信頼関係が崩れている
  2. 患者に支払い能力があるにも関わらず、医療費の支払いを拒否されている
  3. 診療時間外にもかかわらず、即時対応・診療を求められた

 

ただし、上記のようなケースであっても、カルテにそのいきさつややり取りを記録するなど、診療の拒否が応召義務に違反していないことを証明する必要があるため注意が必要です。

医師ジョブブログ

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患者がモンスター・ペイシェント化する原因とは?

患者がモンスター・ペイシェント化する原因は、患者側と医療機関側の双方から考えることが出来ます。

患者側の原因

まず、医療機関に対する期待が高すぎるケースが挙げられます。医療機関にかかれば症状が良くなるはずという過度な期待から、思い通りの結果にならなかった際に裏切られたと感じ、モンスター化してしまう場合があるのです。また、患者ファーストの指針から患者側の権利意識が高くなり過ぎている場合にも、己の主張を通そうとモンスター化する傾向があります。

一方で、単純に患者やその周囲の方々のモラルが著しく欠けているといったケースもあるでしょう。また、精神疾患や認知症などの症状が影響している場合もあります。

医療機関側の原因

医師やスタッフの説明不足、話を聞き流すような態度、高圧的な態度などが患者のモンスター・ペイシェント化のきっかけとなる場合があります。また、診察や会計の待ち時間の長さが患者のモンスター化を助長するケースもあります。対応次第でモンスター化を防げるケースもありますので、体調不良で不安定な患者の気持ちをないがしろにしないことが大切です。

モンスター・ペイシェントへの適切な対処法

モンスター・ペイシェントに遭遇してしまった場合、事態の悪化や問題の長期化を防ぐためにも慎重に対応する必要があります。では、具体的にはどのような対応が望ましいのでしょうか。こちらでは、モンスター・ペイシェントへの適切な対処法をご紹介いたします。

傾聴を心掛ける

まずは患者の話をしっかり聞いて、何に対して不満を持っているのか把握することが大切です。話を途中で遮ったりうかつに反論したりすると、対立関係が生じてしまいます。傾聴を心掛けて接すれば、患者の怒りや興奮が収まる可能性も高くなり、そこで患者のクレームが正当か否かの判断もしやすくなります。

毅然とした態度をとる

モンスター・ペイシェントから脅しや暴言があっても、毅然とした態度で接することが大切です。そもそも不当な要求をされている場合、弱みを見せるとヒートアップする可能性もあります。もちろん医療機関側に落ち度があった場合には、そこに関しては誠実に謝罪するべきです。しかし、不当な要求はきっぱり断って、相手を諦めさせることをゴールに対応する必要があります。

窓口を一本化する

トラブルを複雑化させないためにも、窓口は一本化するのが望ましいです。対応窓口を一本化すれば、スタッフ間での認識の食い違いや伝達ミスを防げます。また、過度な期待を抱かせないためにも、院長や副院長といった幹部を簡単に出さないことが大切です。一度でも特別扱いをすると、それが当然と誤解される可能性もあるため注意が必要です。

必ず複数人で対応する

一人でモンスター・ペイシェントに対応すると、聞き間違いや思い込みで状況が悪化する場合もあります。窓口は一本化すべきですが、実際に相対する際には必ず複数人で対応するようにしましょう。複数人での対応をルール化しておけば、トラブルも未然に防ぎやすくなります。問題解決が難しい場合、警察や弁護士といった外部機関にも協力を仰ぐのが最善です。

対応マニュアルを作成する

各々の判断でモンスター・ペイシェントに対応すると、それぞれ異なる対応をしてしまい状況が悪化する可能性もあります。事前に対応マニュアルを作成しておけば、対応窓口への引き継ぎなどもしやすくなり、いざというときにも落ち着いて対応出来るでしょう。マニュアルを作成した後は、スタッフへの周知もしっかりと行うことが大切です。

まとめ

今回は、モンスター・ペイシェントについてその実態や対処法などを解説いたしました。

モンスター・ペイシェントは近年増加しており、その原因は患者側と医療機関側の双方から考えられます。丁寧に接することで患者のモンスター化を防げる場合もありますので、真摯な対応を心掛けるとよいでしょう。実際にモンスター・ペイシェントに遭遇してしまった場合には、事態の悪化を防ぐためにも冷静に対応することが大切です。事前に対応マニュアルを作成・周知しておくことも重要になります。

とはいえ、現時点でモンスター・ペイシェントへの対策が万全な医療機関はそれほど多くありません。モンスター・ペイシェントに遭遇しても、自身で対処せざるを得ないケースもあるでしょう。しかし、それが続けば心身に支障をきたす可能性も否めません。環境を変えるのがベストな場合もありますので、いざというときは転職も一つの対策として視野に入れてみると良いかもしれません。


<出典>
[1] 医師法|e-Gov法令検索


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