高齢化が急速に進む日本において、近年注目を集める「終末期医療(ターミナルケア)」。
一般市民の間でも終活など人生の最後の迎え方への関心が高まるなかで、医療の現場においても穏やかな余生をサポートする「終末期医療」への関心が高まっています。日本がこれから迎える多死社会への備えとしても重要な役割を担っており、終末期医療のニーズは今後ますます高まっていくでしょう。様々な現場での終末期医療の在り方が検討されており、医師として働くなかで今後関わる機会も増えていくと予想されます。
そこで今回は、医療の現場において終末期医療が注目を集めている背景や現状、また終末期医療の求人事情についても詳しく解説したいと思います。
終末期医療(ターミナルケア)が注目されている理由とは?
終末期医療(ターミナルケア)が注目されている背景には、少子高齢化の進行や多死社会の到来などの社会構造の変化が関係しています。
少子高齢化の進行
全人口に対して65歳以上の人口が21%を超えた社会は「超高齢社会」と呼ばれます。日本は2007年の時点で超高齢社会に突入しており、2022年時点での高齢化率は28.9%です[1]。日本の少子高齢化は今後も続くと予想され、高齢者の割合は2025年で約30%、2065年には約40%に達する見込みとなっています[1]。
このような人口比率の変化は疾病構造の変化にも繋がり、医療や福祉にも大きな影響を与えます。そのため、今後は壮年層とは性質の異なる高齢者に特化した医療の必要性が高まると予想され、その一つとして終末期医療が注目されているのです。
多死社会の到来
前述のような高齢化の進行にともない、日本はこれから亡くなる方が増える「多死社会」を迎えようとしています。日本の死亡者数は2021年で約144万人でしたが[2]、2040年には約168万人まで増加する見込みです[3]。
亡くなる方が増えるということは、当然亡くなるまでの間のケア=終末期医療のニーズも高まります。また、近年は病院で亡くなる方がほとんどですが、多死社会になれば病院だけで看取りを行うには限界があると予想されます。そのため、今後は施設や在宅でも積極的に看取りに取り組んでいく必要があり、様々な場での終末期医療の在り方に注目が集まっています。
ターミナルケアのガイドライン見直し
厚生労働省では、こうした超高齢多死社会を見据え終末期医療に関する議論を重ねるなかで、2015年に終末期医療の名称を「人生の最終段階における医療」に変更しました。また、2018年にはガイドラインの見直しを行い、ガイドラインの内容を病院だけでなく在宅・介護の現場での活用を想定したものに改定しています。
この改定の背景には、超高齢社会の進行に伴い全国の各自治体で「地域包括ケアシステム」の構築が進められていること、そして多死社会を前に在宅や施設でのケア・看取りのニーズ増が見込まれていることが関係しています。このことからも、終末期医療は今後の日本社会において注目せざるを得ない課題でもあることがわかります。
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン|厚生労働省
医師が終末期医療(ターミナルケア)に携わるためには?
終末期医療(ターミナルケア)に携わりたい場合、現在の勤務先での従事が難しい場合には、選択肢として転職もしくは開業が挙げられます。
転職
終末期医療に関する求人は、主にホスピスや緩和ケア病棟・療養病棟を有する病院・介護施設・在宅医療クリニックなどから出ています。職場によって目的やケア内容・求められるスキルは変わりますが、内科系の全身管理が出来れば未経験でも相談出来るケースも多いです。終末期医療の場合は目的が治療ではないため、医療スキルよりも多職種や患者・ご家族とのコミュニケーションスキル、人柄などが重視されるケースも多いです。
開業
開業で終末期医療に携わりたい場合には、在宅医療が主になるでしょう。開業医なら診療方針や働き方を自由に決められるので、終末期医療への注力も可能です。ただし、自身で開業する場合には基本的に指導環境がないため、在宅医療や終末期医療の経験者であることが前提になります。
また、物件探しや資金調達、スタッフの採用など事前にやるべきことは多くあります。診療だけではなく経営にも携わらなければならないので、向き不向きがあることも考慮する必要があります。
終末期医療(ターミナルケア)で起こりうるトラブル
終末期医療(ターミナルケア)で気を付けなければならないのが、患者本人やそのご家族とのトラブルです。終末期医療では臨終や看取りに際してトラブルに巻き込まれるケースが多少なりともあり、終末期医療に携わる医師の約2割がなんらかのトラブルを経験しているとの調査結果もあります。
具体的なトラブルの内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 患者本人とご家族の意向が一致しない
- 説明したはずの診療方針やケア内容にクレームをつけられる
- 臨終に際し、家族から無理難題を言われる
- 患者が亡くなったあと、治療を行わなかったことを責められる
- 遺産相続の争いに巻き込まれて、理不尽な言いがかりをつけられる など
終末期医療では家族が関与する割合が高いため、そこのすり合わせや説明が不十分だとトラブルになりやすい傾向があります。また、これまでの診療では関わりのなかった遠方の家族が、臨終に際して急に口を挟んでくるのもよくあるパターンのようです。ほかにも、患者の年金目当てと思われる延命治療の要望など、トラブルにはならなくとも不信感が募るような局面に遭遇することもあるようです。
終末期医療では患者の死に向き合うことが避けられないため、通常の診療とはまた異なる配慮が求められることを心に留めておく必要があります。
終末期医療(ターミナルケア)の求人事情
終末期医療(ターミナルケア)の求人を探していると、医師よりも看護師や介護士の求人が目につくかもしれません。確かに、医師の終末期医療の求人の絶対数はそれほど多くはありません。そのため、求人を探すには少し工夫が必要です。こちらでは、求人のおすすめの探し方を解説いたします。
求人サイトで探す
医師向けの求人サイトでは、条件を細かく指定して求人検索をすることが可能です。自分で探す必要はありますが、スマートフォンからでも気軽に検索できる手軽さが魅力です。
ただし、終末期医療の求人探しにはコツがあります。例えば、単にフリーワードに「終末期医療」「ターミナルケア」と入力して検索をかけても、あまり求人がヒットしないケースがあります。しかし、それは終末期医療の求人がないわけではなく、終末期医療という枠で医師を募集することが少ないからです。
終末期医療に携わりたい場合、詳細検索で以下のように条件を絞り込んで求人を探すのがおすすめです。
選択項目 | 条件の絞り込み方 |
科目 | 老人内科・緩和ケア科など終末期医療との関連が強い科を選択 |
施設区分 | 病院で働きたい場合…ケアミックス病院・療養型病院 施設で働きたい場合…介護老人保健施設 在宅医療に携わりたい場合…クリニック希望であればクリニックなど、終末期医療を扱っている施設を選択 |
業務内容 | 病棟管理・在宅医療など業務内容に終末期医療を含むものを選択 |
自身の希望条件を踏まえ、終末期医療を提供している場を探すイメージで検索すると、単にフリーワードで検索するよりも多くの求人を見つけることが可能です。
転職支援サービスを利用する
いちいち条件を指定して検索するのが面倒な場合には、転職支援サービスを利用するのがおすすめです。求人情報の提供はもちろん、先生の希望に合わせて雇用条件の交渉なども行ってくれるため、より自分にぴったりな求人を探すことが出来ます。終末期医療に興味があるが、実際の勤務イメージが湧かないといった場合でも、病院・介護施設・在宅クリニックなど様々なバリエーションの働き方を提示してくれるでしょう。面接日程の調整などもサポートしてくれるため、普段忙しくて時間がとれない方でも少ない労力で転職活動を進めることが可能です。
まとめ
今回は、終末期医療(ターミナルケア)について詳しく解説いたしました。
近年終末期医療が注目されている背景には、これから訪れる超高齢多死社会が関係しており、終末期医療の必要性は今後ますます高まっていくことが予想されます。日々の業務のなかで終末期医療に携わりたい場合、転職や開業が選択肢となるでしょう。終末期医療の求人はそれほど多くありませんが、検索方法を工夫すれば自力でも探しやすくなります。また、転職支援サービスを利用すれば、自力で探すよりも手間をかけずに自分にぴったりの職場を探すことが可能です。
医師ジョブには、終末期医療に携われる求人も豊富にございます。病院・介護施設・在宅クリニックなど、豊富な選択肢から先生のご希望に合わせてご紹介が可能ですので、転職をお考えの際は是非ご相談ください。
<出典>
[1] 内閣府 「令和4年版高齢社会白書(全体版)」
[2] 厚生労働省 「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況」
[3] 国立社会保障・人口問題研究所:日本の将来推計人口