タスク・シフト/シェアとは?メリットや課題、例を紹介

タスク・シフト/シェアとは?メリットや課題、例を紹介

タスク・シフト/シェアとは?メリットや課題、例を紹介

直近でも応招義務(応召義務)に関連したお話をいたしましたが、医師の働き方改革に関しては最近特に取り上げてまいりました。

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今回はタスク・シフト/シェアに関連したお話です。

タスク・シフト/シェアとは

そもそも、タスク・シフト/シェアとは、医師の働き方改革を進めるにあたって注目されている概念です。

医師の業務を他の職種に移管することで、医師の業務量を削減することを第一義の目標としています。

タスク・シフト/シェアの実現にあたってはチーム医療の視点に立って推進することと、幅広い職種に対しての医師によるメディカルコントロール(医療統括)が必要です。

働き方改革に関しては、課題の一つとして「長時間労働の是正」が挙げられています。

特に医師については過労死ラインを超えて働くことが多く、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられてきた日本の医療は危機的な状況にあります。

とはいえ、すぐにタスク・シフト/シェアが可能かというとそうではありません。

医師においては、「医師法」などの法律や現行制度が高い壁となっていることも問題点のひとつでした。

そのため、厚生労働省は2017年から長く働き方改革に関して議論を重ねてきました。
2019年夏には諸団体からタスク・シフト/シェア可能と考えられる業務についてヒアリングを行い、実施可能な業務を具体的に挙げた上で検討会で議論を行いました。

検討会では、まずは現行制度で可能なものからタスク・シフト/シェアを進めていくことを前提に業務の選定を行うことになり、多くの業務について整理されました。

タスク・シフト/シェア推奨例

特に、厚生労働省はタスク・シフト/シェアを推奨するものとして以下の項目を挙げています。

職種に関わりなく特に推進するもの

1)説明と同意

例1)看護師や診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士等による検査等の説明と同意
例2)薬剤師による薬物療法全般に関する説明
例3)医師事務作業補助者や看護補助者による入院時の説明(オリエンテーション)等

2)各種書類の下書き・作成

例1)理学療法士、作業療法士、言語聴覚士によるリハビリテーションに関する書類の作成・所見の下書きの作成
例2)医師事務作業補助者による診療録の代行入力
例3)医師事務作業補助者による損保会社等に提出する診断書、特定疾患等の申請書、介護保険主治医意見書等の書類、入院診療計画書や退院療養計画書等診療報酬を算定する上で求められる書類、紹介状の返書などの書類の下書き 等

3)診察前の予診等

例1)看護師による診療前の問診や検査前の情報収集(病歴聴取・バイタルサイン測定・トリアージ、服薬状況の確認、リスク因子のチェック、検査結果の確認)
例2)医師事務作業補助者の診察前の予診(医師が診察をする前に、診察する医師以外の者が予備的に患者の病歴や症状などを聞いておく行為) 等

4)患者の誘導

例1)看護補助者による院内での患者移送・誘導
例2)診療放射線技師による放射線管理区域内への患者誘導
例3)臨床工学技士の患者の手術室退室誘導 等

職種毎に推進するもの

ⅰ)助産師

 助産師外来・院内助産(低リスク妊婦に対する妊婦健診・分娩管理、妊産婦の保健指導)

ⅱ)看護師

 特定行為(38 行為 21 区分)の実施
 予め特定された患者に対し、事前に取り決めたプロトコールに沿って、医師が事前に指示した薬剤の投与、採血・検査の実施
 救急外来において、医師が予め患者の範囲を示して、事前の指示や 事前に取り決めたプロトコールに基づき、血液検査オーダー入力、採血・検査の実施
 画像下治療(IVR)/血管造影検査等各種検査・治療における介助
 注射、ワクチン接種、静脈採血(静脈路からの採血を含む)、静脈路確保・抜去及び止血、末梢留置型中心静脈カテーテルの抜去及び止血、動脈ラインからの採血、動脈ラインの抜去及び止血
 尿道カテーテル留置

ⅲ)薬剤師>

 手術室・病棟等における薬剤の払い出し、手術後残薬回収、薬剤の調製等、薬剤の管理に関する業務
 事前に取り決めたプロトコールに沿って、処方された薬剤の変更(投与量・投与方法・投与期間・剤形・含有規格等)
 効果・副作用の発現状況や服薬状況の確認等を踏まえた服薬指導、処方提案、処方支援

ⅳ)診療放射線技師

 血管造影・画像下治療(IVR)における医師の指示の下、画像を得るためカテーテル及びガイドワイヤー等の位置を医師と協働して調整する操作
 医師の事前指示に基づく、撮影部位の確認・追加撮影オーダー(検査で認められた所見について、客観的な結果を確認し、医師に報告)

ⅴ)臨床検査技師

 心臓・血管カテーテル検査・治療における直接侵襲を伴わない検査装置の操作(超音波検査や心電図検査、血管内の血圧の観察・測定等)
 病棟・外来における採血業務(血液培養を含む検体採取)

ⅵ)臨床工学技士

 手術室、内視鏡室、心臓・血管カテーテル室等での清潔野における器械出し(器械や診療材料等)
 医師の具体的指示の下、全身麻酔装置の操作や人工心肺装置を操作して行う血液、補液及び薬剤の投与量の設定等

ⅶ)医師事務作業補助者(医療クラーク)

 医師の具体的指示の下、診療録等の代行入力

法令改正を行いタスク・シフト/シェアを推進する職種ごとの業務について

ⅰ)静脈路の確保とそれに関連する業務について

診療放射線技師については、

 造影剤を使用した検査やRI検査のために静脈路を確保する行為
 RI検査医薬品を注入するための装置を接続し、当該装置を操作する行為
 RI検査医薬品の投与が終了した後に抜針及び止血する行為

臨床検査技師については、

 採血に伴い静脈路を確保し、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む。)に接続する行為

臨床工学技士については、

手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療において、
 生命維持管理装置や輸液ポンプ、シリンジポンプに接続するために静脈路を確保し、それらに接続する行為
 輸液ポンプやシリンジポンプを用いて薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る。)を投与する行為
 生命維持管理装置や輸液ポンプ、シリンジポンプに接続された静脈路を抜針及び止血する行為

※静脈路の確保については、職種横断的な業務であるため、まとめて記載されています。

ⅱ)診療放射線技師

 動脈路に造影剤注入装置を接続する行為(動脈路確保のためのものを除く。)、造影剤を投与するために当該造影剤注入装置を操作する行為
 CTコロノグラフィ検査等の下部消化管検査のため、注入した造影剤及び空気を吸引する行為
 上部消化管検査のために挿入した鼻腔カテーテルから造影剤を注入する行為、当該造影剤の投与が終了した後に鼻腔カテーテルを抜去する行為
 医師又は歯科医師が診察した患者について、その医師又は歯科医師の指示を受け、病院又は診療所以外の場所に出張して行う超音波検査

ⅲ)臨床検査技師

 直腸肛門機能検査(バルーン及びトランスデューサーの挿入(バルーンへの空気の注入を含む。)並びに抜去を含む。)
 持続皮下グルコース検査(当該検査を行うための機器の装着及び脱着を含む。)
 運動誘発電位検査・体性感覚誘発電位検査に係る電極(針電極を含む。)装着及び脱着
 検査のために、経口、経鼻又は気管カニューレ内部から喀痰を吸引して採取する行為
 消化管内視鏡検査・治療において、医師の立会いの下、生検鉗子を用いて消化管から組織検体を採取する行為
 静脈路を確保し、成分採血のための装置を接続する行為、成分採血装置を操作する行為、終了後に抜針及び止血する行為
 超音波検査に関連する行為として、静脈路を確保し、造影剤を注入するための装置を接続する行為、当該造影剤の投与が終了した後に抜針及び止血する行為

ⅳ)臨床工学技士

 血液浄化装置の穿刺針その他の先端部の動脈表在化及び静脈への接続又は動脈表在化及び静脈からの除去
 心・血管カテーテル治療において、生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるために、当該負荷装置を操作する行為
 手術室で行う鏡視下手術において、体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラを保持する行為、術野視野を確保するために内視鏡用ビデオカメラを操作する行為

ⅴ)救急救命士

救急救命士の議論は、「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」(医政局地域医療計画課)で行った。
 現行法上、医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置について、救急外来においても実施可能とする

引用:厚生労働省「ヒアリングで医師から既存職種へタスク・シフト/シェア可能とプレゼンテーションされた項目まとめ【業務内容別】」

この他にも、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、義肢装具士、救急救命士へのタスク・シフト/シェアも推奨されています。

タスク・シフト/シェアのメリット

では、実際に上記のようなタスク・シフト/シェアが進むと、どのようなメリットがあるのでしょうか。
考えられる主なメリットは、以下の3つです。

 長時間労働の是正
 人手不足の解消
 医療の質の向上

まず一つ目は、医師の働き方改革の課題の一つでもある長時間労働の是正が挙げられます。タスク・シフト/シェアの導入により医師に集中していた業務を他の職種に移管出来れば、医師の業務負担が軽減され、労働時間の削減につながると考えられます。

二つ目は、人手不足の解消です。タスク・シフト/シェアが進めば、これまで医師だけが担っていた業務を多職種で共有できるようになり、業務の効率化につながるでしょう。より少ない人数で現場を回せるようになるなど、人手不足の解消にも役立つと考えられます。

三つ目は、医療の質の向上です。タスク・シフト/シェアの推進により慢性的な長時間労働や人手不足が改善されれば、患者さんに対してよりきめ細やかなケアが可能になります。また、医師が医師にしかできない業務に集中できるという点でも、医療の質の向上が期待できるでしょう。

タスク・シフト/シェアの課題

ただし、タスク・シフト/シェアを進めていく上で、課題も同時に挙げられています。
まずは医療機関側がタスク・シフト/シェアの実施可能かどうかを明確にする必要があり、また実施可能な業務に関して整理するだけでなく、どうすればできるのかという道筋を立てる必要があります。

また、個々のモチベーションや危機感等も必要であることを明記し、例えば医療従事者全体の制度面への理解不足や社会への啓発が足りてないためにタスク・シフト/シェアが進まないのでは、との指摘もありました。

さらには、知識や経験、ノウハウが不足していると難しいことも挙げられます。
例えば、指導・研修の統一、マニュアルの作成、システムの構築が不足していると進まない可能性があります。
いくら意識改革が進んでも、どのようにシフトしていけば良いのか?やどう指導していけばいいのか?という壁にぶつかり、上手くいかない可能性も考えられますよね。

またここが一番の課題となると思われますが、人員、労働時間、資金等の余力が厳しい点の一つでもあります。
特に看護師や医師事務作業補助者の負担の増大は必至ですので、現実的にタスク・シフト/シェアを進めようと思えば、技術や意識だけでなく、職種によっては増員が迫られることは間違いありません。

しかしながら、実情を考えれば、その人員、労働時間、資金等の余力が医療機関にあるとは到底言い難い状況です。
特に、2020年から始まったコロナ禍において、医療機関は新型コロナウイルス感染症への対応を迫られたことで、タスク・シフト/シェアを行おうにも行えないという状況になっているところも少なくないでしょう。
準備が不完全なまま進めれば、2024年の医師の働き方改革によって他の医療従事者への負担が増えてしまいかねません。

医行為のタスク・シフト/シェア

厚生労働省は、医行為にあたる業務のタスク・シフト/シェアについては、「医師の指示の下で行われることを前提として、医療の質や安全性を担保しながら、推進していくことが重要である。」とも記載しています。
また、医師の指示が成立する条件としては、以下の事項が必要になるとの見解を示しています。

① 対応可能な患者の範囲が明確にされていること
② 対応可能な病態の変化が明確にされていること
③ 指示を受ける者が理解し得る程度の指示内容(判断の規準、処置・検査・薬剤の使用の内容等)が示されていること
④ 対応可能な範囲を逸脱した場合に、早急に医師に連絡を取り、その指示が受けられる体制が整えられていること

指示に関しては、具体的な指示や包括的な指示など、あらゆる可能性にも対応できるよう仕組みづくりと現行制度下における実施可能範囲の確認も必要であることを念押ししていました。
タスク・シフト/シェアしたら終わりではなく、これは始まりに過ぎないとも言えますね。

医師がタスク・シフト/シェアを実施する際の注意点

タスク・シフト/シェアは医師の働き方改革の文脈で検討されていることもあり、その恩恵を一番受けるのは医師でしょう。だからこそ、推進にあたっては患者さんやコメディカルの目線に立って考えることも必要です。
医師がタスク・シフト/シェアを実施する際には、以下の点にも配慮する必要があるでしょう。

患者さんの安全の確保

タスク・シフト/シェアの推進にあたり、一番避けなければならないのが患者さんの安全性が損なわれることです。多職種間で業務の移管や共有が進めば、当然ながら現場での業務の進め方も変わっていくでしょう。そのことが患者さんの不利益につながることがないよう、特に安全性の確保については慎重に考慮しながら取り組む必要があります。

特に医行為にあたる業務のタスク・シフト/シェアにおいては、患者状態を適切に把握した上で、あらかじめのプロトコールを定めておくことが非常に重要です。法的な整理だけでなく、現場環境によっては実際に業務に当たる個人の能力についても把握して判断していかなければならない部分もあるでしょう。

また、これまで医師が行っていたことを他の職種が行うことについて、患者側が不安を感じるケースもあるかもしれません。業務の効率化を進めることも大事ですが、患者さんの安全性がおざなりになることがないよう、時間をかけて進めていく必要があるでしょう。

コメディカルへの業務集中の緩和

タスク・シフト/シェアは、医師の業務負担軽減が期待される一方で、業務を移管されるコメディカル側の負担増も懸念されています。特定の職種へ偏ったタスク・シフト/シェアが進められることは、労働環境の悪化につながるため望ましくありません。

いきなり丸投げのような形で強引に進めてしまうと、医師とコメディカルとの関係性が悪化する可能性もあります。タスク・シフト/シェアの推進には、多職種による連携体制の構築が不可欠です。業務の押し付け合いにならないよう、チーム医療を念頭にフラットな関係性を築き、医療機関全体で取り組んでいく必要があるでしょう。

まとめ

2024年に施行した医療法の改正事案の中には、医師の時間外労働の上限規制が適用されています。
そのような背景から、現行制度の下で実施可能な領域においてタスク・シフト/シェアを推進していくことは医師の働き方改革を推進するうえで重要なポイントとなってくると予想されます。現在の勤務先がどのような取り組みを行っているか、今一度確認してみるのもよいでしょう。

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▼ 参考資料
厚生労働省「医師の働き方改革について」
厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理」
厚生労働省「医師からのタスクシフティングについて」
厚生労働省「医師の働き方改革及びタスク・シフト/シェアの推進について」
厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアについて」
厚生労働省「ヒアリングで医師から既存職種へタスク・シフト/シェア可能とプレゼンテーションされた項目まとめ【業務内容別】」


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